第145回「『紅葉』という言葉を用いて秋の風景あるいは情景を描写せよ」
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sh4rn0th
子どもの頃、公園で焼き芋を作ろうとしたことがあった。
様々な紅葉が彩る落ち葉を両手いっぱいにかき集めて、母親の目を盗んで野菜置き場からさつま芋を運び出したのだ。火をつける道具を私は探し出せずにいたけど、一緒に悪さをしていた友人がマッチを持ってきたことで、作戦が実行に移った。
マッチの擦れる音。灯された火の温かさが落ち葉の中で大きく膨らみ、木枯らし吹く昼下がりの寒さを吹き飛ばす。理科の授業で実験に成功したような嬉しさに声を上げてしまうのだ。
結局、公園で火を使った遊びを子どもがやっていれば、すぐご近所ネットワークによって母親の耳に入ることは明白で、焼き芋を食べる前にこっぴどく怒られたのだけども。
大人になった今でも紅葉を目にすると、あの頃を思い出して胸の奥がほのかに熱くなる。
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時猫一二三
冬の吐息に触れた途端、山の木々は一斉にその装いを改める。
所謂、"紅葉"というものであるのだが、山は決して、紅一色といったセンスのない衣を羽織らない。
夕陽が落ちてきたような紅を羽織った様は、たしかに紅葉と呼ぶべきなものなのだろう。
しかし、暖かな黄色から、ほのかに濃さを増した緑、焼け焦げたような土の色。
その色彩は幅広く、どんな虹よりも鮮やかで、"紅葉"という字面から受ける赤の印象に留まることはない。
そのうえ、日毎に着替えるものだから、まるで飽きることはなかった。
山での生活は不便が多く、都市に育ったわたしには苦労が多い。
しかし、こうも艶やかな姿を披露してくれたとあっては、離れることなど到底考えられなかった。
今日もわたしは、山に恋して生きている。
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髭虎
季節は巡る。
何をしても、何をしていなくても。
閉じきった暗い部屋から臨む、青い空。
視界を泳ぐ紅葉の赤。
絶好の行楽日和というやつだろう。思わずその窓ガラスへと手を伸ばせば、ヒヤリと突き刺すような冷たい空気が肌を撫でて。私はすぐに手を引っ込めた。
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