第14回「賭け事での緊張の一瞬を、『緊張』という言葉を使わずに描写せよ」
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くまくま17分
月が満ちる闇夜。
きらびやかに彩られたカジノが毒々しく光り夜の闇に浮かび上がる。
大金が飛び交い、人生の明暗が交錯する中、ポーカーに勤しむ男はカードを片手に握り締め、もう片方の手をデッキに伸ばす。
動揺を悟られないよう、ゆっくりと慎重に。
胸の中の心臓が暴れ回る。早鐘の様にけたたましく心音を響かせて。
その余波で吐く息や腕が震えるのを堪えながら今、ゆっくりとカードに指を掛け、ペラリとその端を小さく捲り上げた。数字はまだ見えない。
狙う役はフルハウス。今の手札は、
:diamonds:のJ、:spades:のJ、:diamonds:の四、:spades:の4。
:clubs:のJは既に捨て札の中。:hearts:のJはまだ出ていないが、:hearts:のロイヤルストレート狙いが他に居るので望みは薄い。
とにかく四。それで全てが解決する。
もう賭けられる金は全てベットした。これで引いたカードが思惑を外れているとなると………。
デッキから引き揚げた一枚。その札に全く脈絡の無い数字を幻視すると、嫌でも心音が加速する。
鼓動が激し過ぎて胸が痛い。呼吸も早く浅くなり覚束ない。腕が痙攣しそうだ。
いっそ、このまま気絶できればどれだけ良いか。
(いや、考えまい)
ゆっくりと細長く息を吐いて気持ちを落ち着ける。
結果を知るのは怖い。
だがここまで来たら開き直るしかない。
運否天賦。いよいよ覚悟を決めてカードの中身を見た。
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