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第135回「逃という言葉を使わずに逃亡を表現せよ」

______________________________


インファ


 来ないで……!

 走れど走れど追いかけてくる。決して振り向いてはならない。振り向けば終わりだ。やっとのことで助け出してもらえたんだ。私は自由になるんだ!

 そう思った矢先、小石につまづいてしまった。面白いほど綺麗に転んで、剥き出しの膝小僧が赤く滲む。だが、こんなかすり傷を気にしてはいられない。

 仲間が私を待っているんだから……!

 自分を奮い立たせ、脚に張り付いた砂を払い立ち上がった、その時だった。

 右肩に手が置かれたのは。

「はい、お疲れ様〜。牢屋は猿渡のとこね〜」

 とうとう警察に捕まってしまった。赤白帽を赤にした友達の気の抜けた声に、私は白帽子を脱いだ。大人しくとぼとぼと牢屋へと歩いていく。こうして私は再び捕まってしまったのだった。


______________________________


くまくま17分


 草木も眠る丑三つ時。

 むったりと蒸し暑い山中に立ち込める夜の闇を、俺は息を切らして駆け抜ける。


「はあっ はっ はあっ はっ………っ」


 後ろを振り向く余裕は無い。

 物凄い速さで追われているのは、背中越しに伝わる冷え冷えとした気配が教えてくれる。

 速すぎるだろ、こんなの。

 首なしの鎧武者が太刀を片手に迫って来る。

 重装備にも拘わらず、全速力の俺よりも速い。

 足音は聞こえない。それでも、真冬の寒さを感じることからかなり接近されているのが解る。

 このままだと、確実に死ぬ。


「ーーーっ!?」


 突然地面が消失し、バランスを崩して窪みに頭から突っ込んだ。腐葉土に顔が埋まったおかげで出血はない。

 へたり込んで肺に空気を取り込もうと必死に喘ぐ。

 死ぬかと思った。正直、今でも生きた心地はしない。


(助かっーーー)


 真横で逆さになった落武者の首を見ると、俺の心臓は凍った。


______________________________


髭虎


 中学生の頃、自分は何にでもなれるのだと思っていた。人生という物語の主人公は俺で、だからきっと学校を襲ってきたテロリストを倒したり、悪い奴を倒すヒーローにだってなれるのだと……そう、思っていた。


「えー、皆さんに大事なお知らせがあります」


 ある日、いじめが起きた。

 標的は俺の友だちだった。

 物静かで、人見知りで、でも笑うと可愛くて。

 隣の席になって自然と話すようになった。片想いの相手だった。

 だから目の前でいじめが起きた時、俺は。


「このクラスの高田さんが家庭の事情で急遽引っ越すこととなりました」


 俺はそれに——見て見ぬふりをしたのだ。


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