第132回「涼という言葉を使わずに涼しげな情景を表現せよ」
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せん
夏の楽しみといえば、なんと言っても休みである。
午後13時。ご飯をかき込み「ごちそうさま」と同時に家を出た。
何やらお母さんが怒鳴っていたが無視して走る。
焦げるような灼熱の日差しとけたたましい蝉時雨。
息を吸うたびに玉のような汗が滴り落ちたがそれでも走る。
待ち合わせ場所は近くの神社だった。鳥居を潜ると雑木林がサワサワと小川のせせらぎのようになびいた。
サトルは、木々の陰が落ちた水汲み場で水遊びをしていた。
「何やってんだよ今日は水遊びの予定じゃないよ」
声をかけるや否や水汲み場の冷たい山水をかけられた。
「冷てッ!」
「はっはっは遅い罰だ」
そう言いながら今度は錫杖一杯の山水。
逃げようと思ったときには手遅れで、液体が放物線を描いて顔に飛んできた。
「ヒッ! ちょ!」
凍るような冷たさに背筋がピシッと軋む。
「よーし今度はダブルでいくぞー」
続いてお腹に二連撃。ピシャンピシャンと山水が跳ねる。服が濡れる。鳥肌が立つ。
あぁ、きっとその冷たさの所為だと思う。急に頭が冷静になり、自分の置かれている状況に寒気がした。
「サトル、おれたち今年で39だよな」
「そうだなぁ今年こそ就職したいな」
さすがにこれは、アラフォーのおっさん二人がやる遊びではないなぁ、と。
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くまくま17分
月明かりが照らす浜辺。
昼間の灼熱はどこへやら。穏やかな潮騒が夜の闇に谺する。
そっと頬を撫でる浜風もひんやりと心地よい。
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