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第129回「泳ぐという言葉を使わずに水泳を表現せよ」
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インファ
好きだった。
毎日、少しでも早く、少しでも美しくなっていくことが。水面を掻き分ける両の手から生まれる、棚引くような水流が。掻けば掻くほど身体を包み込んでいく水圧が。
みるみるうちに通り過ぎていく脇のカラフルなコースロープ。その色が判断できないほどのスピードを出してみたかった。隣を進むあの子を超えてみたかった。
叶わなかった、高校最後の夏の夢。
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くまくま17分
「くそ、囲まれたっ!」
湖の孤島に舟で移動し、宝を手に入れて喜んだのも束の間。
湖面から鎌首をもたげた数体の水竜が見下ろしてくる。
幾重にも襲い掛かる咬撃をかわしざまに頭を斬り付ける。
警戒した敵は湖面に没し、孤島を周回しながら攻撃の機を窺っていた。
波紋揺らめく湖面から、時折姿を見せる長い竜胴。
武器を構え、覚悟を決めた顔を雫が伝う。
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