第122回「初という言葉を使わずに初々しさを表現せよ」
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くまくま17分
自転車を置き、駅の構内に入ると、改札口付近の柱にその姿を見る。
「先輩」
声を掛けながら近付くと、彼女となった先輩の姿を改めて見やる。
淡いアイスグリーンのワンピース。腰元がギャザーで絞られており、華奢な身体のラインが強調されている。パフスリーブは愛嬌を前面に押し出していた。
制服や袴姿の凛々しさではなく、可憐さを纏うデートコーデは新鮮で思わず無言で見惚れてしまった。
「………どう?」
頬を朱に染めながら上目遣いで問いかける姿はいじらしく、知らずの内に顔が緩む。
慌てて居住まいを正し、茹で上がった顔の熱を冷ますため、わざとらしく咳払い。
「その。似合って、ます……」
恥ずかしさの余り目を合わせられない。
「フフ……」
口に手をあてがい控えめに笑った。
それを見ただけで心臓が跳ね上がり、身体が火照ってどうしていいか解らなくなる。
先輩後輩と恋人同士じゃここまで違うのか。
今までと勝手が違い、緊張が抜けない。
まるで、出会った頃みたいだ。
(オレ、最後まで保つかな?)
意識と理性が。
そんな不安が頭によぎった。
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