第12回「『暑』と『熱』を使わずに砂漠を表現せよ」
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髭虎
無意味なことの喩えとして『砂漠に水を撒く』という言葉があるが、実際に見てみると、なるほど。確かにこれはどうしようもないなと思わされる。
「……ここで一週間、か」
見渡す限り砂の海。生き物の影すら見えぬ枯れきった世界に、白骨化した未来の自身を幻視する。
けれども、まぁ今回も何とかなるだろう。ならなければ死ぬだけさ。
「さて、行こうか」
荷物の確認は済ませた。スマホと財布をぽいっと捨て去り、水を僅かに口に含む。
あぁ、まったく。
帰ったらキンキンに冷えたビールでも飲みたいものだ。
嘯いて一歩踏み出した。
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くまくま17分
強風が轟き黄砂が狂乱する砂嵐。
砂礫の幕が幾重にも折り重なり、さながら黄金の闇を形成する。
砂塵が荒れ狂う岩石砂漠の中、岩陰に潜みながら風の暴君が去るのをじっと耐えて待つ。
その間にも揺蕩う砂塵が服の上に堆積し、布に隠した肌へと浸食してくる。
砂塵にまみれる自分は今、砂礫と岩壁の迷宮とも言うべきこの砂漠の踏破に挑戦している。
それは、叶わぬ思慕の傷心か。
それとも未練の払拭か。
自分にもよくわからない。
ただ、この先の景色を見れば自ずと答えが出る事だけは確信している。
やがて、風が徐々に弱まって来た。
岩陰を出ると、砂塵の幕が彼方の景色を覆い隠しているが歩けないほど視界が利かぬ訳でもない。
「よし、行こう」
砂に足を取られぬよう、気を付けながら再び歩き始めた。
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