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第119回「失敗という言葉を使わずに失敗を表現せよ」

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風間


 成功者は必ず通る関門


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アルタ


 やってしまった。

 完全に、俺はとんでもないことをしでかしてしまった。

 事の発端は、些細なものであった。

 俺はとある場所で、とある物を見つけてしまった。俺はその文脈に惹かれ、ソレに手を伸ばしてしまった。

 そこまではいい。だが、そこからが問題であった。

 初めから、その文に従えばよかったのだ。だが俺は心の底から湧いた好奇心と、得体の知れない探求心に襲われてしまった。

 これは、その結果の結末だ。俺は、俺の都合でソレを殺めてしまったのである。

 嗚呼、俺はなんて愚かなんだろう。どうして俺は、素直に規定に従わず、独自の見解と判断で物事を進めてしまったのだろう。

 だが、悔やんでいても仕方がない。俺が出来ることは、ソレをソレとして供養してやることだけだ。

 そして、俺はその湯気の立つソレに向けて箸を伸ばす。さぁ、食そう。『五分炒めて倍美味しいチャーハン』を、更にその倍の五十分炒めたぐちゃぐちゃのチャーハンを。


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髭虎


 時計の音で目を覚ます。

 時刻は午前7時25分。263度目の朝だ。目覚ましを止めて体を起こす。

 テレビを付ければ前回と同じ。変わらぬ日付で変わらぬ報道が画面に踊っている。


 つまり、俺はまた抜け出せなかったわけだ。


 用意を済ませ、家を出る。

 時計は8時29分27秒。覚えたペースで道を歩き、最初の角を右に曲がる。——直後、俺の真後ろをトラックが勢いよく通り過ぎる。


 ……いい加減ここは覚えたな、と。


 疲れていたのか、そんな干渉に浸ってしまった。


 時計は8時31分13秒。頭上で何かが割れる音。飛んでくるガラスの破片を目に留めて——あぁ、また最初からか。


 俺は静かに目を閉じて、次の朝を受け入れた。


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くまくま17分


 皆中。それは一矢の漏れなく的に当て続ける事。

 ただ今、88射目。全て命中のパーフェクト。

 正射必中。和弓の定石である射法八節に則り正しいフォームで番えれば外さない。

 疲労はある。緊張と相まって息が弾んでいる。

 だが、次当てれば自己ベスト。

 今日は調子がいい。大丈夫、やれる。

 一旦、ゆっくりと深呼吸して気持ちを落ち着けた。

 心が凪いだ状態に戻し、矢に手を掛け弓を引き、弦を張り詰めさせる。

 射法以外の情報を頭から排し、的を見据えた。

 大気の温感も、音も、湿度も、身体の疲労さえも意識の外に。

 そして、放たれた。

 風を切って弦が鳴る。清澄な音色、ではない。


「………あー」


 外した。落胆に思わず天井を仰ぐ。

 自己ベストだとか調子がいいとか、排した筈の雑念が身体に無用な緊張を生み出し、その結果、狙いが逸れて弦音が濁った。

 未熟者。気恥ずかしさに頭を掻きつつ、心の中で自分を叱責した。


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