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第117回「雨という言葉を使わずに雨を表現せよ」

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赤髪のLaëtitia


 聞くが良い――それはイスラーフィールの慟哭。

 受け止めよ、その落涙を。

 地には心飢えし者、いと硬き枷が暗黒に閉ざす。

 幸せかな、その心満つる時、

 枷突き破り、大いなる空へ目一杯手を広げ、

 神の恩恵を全身で受けるのだ。

 あぁ今この大地に、

 新たなる命の息吹が、芽生える。


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風間


 大海より生まれ出でし雲。

 その雲より降り注ぐ雫。

 それすなわち、大地に生きる命あるもの達を潤す、命の水なり。


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いづみ


 鼻孔を突く柔らかな空気

 肌はじんわりと湿度を含み

 口内に飛び込んでくるそれは仄かに苦く

 トタン屋根を叩く軽快な音

 庭先でタップダンスを踊るそれは

 いつも私を楽しませてくれる

 最高のエンターテイナーだ


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july


 跳ねる音が幾重にも連なって、ラジオのノイズに似た音を立てる。

 空は錆び付いた心を読み取ったかのように灰白色。

 次第に強まるノイズは窓ガラスを今にも砕く勢いの感情。


 ──お願い、今空気を読まないでよ。


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廃墟の地


 この風景は、多くの人にとって憂鬱であろう。しかし、私はそうは思わない。

 不規則ながらどこか規則的に聞こえる音。これにアシッドジャズを加えると、実際の所最高の読書日和だ。

 さぁ――今日はなんの本を読もうかな、と本棚に向かって私は溢れる好奇心と天の思わぬ贈り物に感謝しながら、慎重に、大胆に選りすぐる。


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インファ


 前髪から雫が滴る。鼻筋を伝って、顎筋を伝って、桜色のプレゼントボックスにポトリと落ちた。じわりと滲んで、一つの染みとなる。二つ、三つと増えていく。桜は紅となりふやけていく。いずれ、中のチョコレートまで染み込んでいくのだろう。そのまま私の心もふやけてしまえばいいのに……。


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時猫一二三


 空が泣き、麦が笑う。


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せお


 温もりが奪われる。これはきっと、死の味。

 人々に取り残される。これはきっと、孤独の音。

 曇天に睨まれる。これはきっと、皮肉の臭い。

 絶対である彼の君が泣く姿を見る。これはきっと、反逆の感覚。


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ZUMA


 地下鉄の昇降口で、彼女は呆然とスマホを耳に当てている。カバンに折り畳み傘を忍ばせているので、声をかけることはできた。というより、そうするべきだったはずだ。


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くまくま17分


 下校の家路で夕立に降られながら、僕らはバス停の屋根の下へと駆け込んだ。


「いや~、ヒドかったねぇ」


 濡れたアスファルトの匂いが立ち込める中、僕は連れ合いの少女の方へと振り返る。

 すると、ワイシャツの裾を絞ってる少女の胸元が透けて桜色が滲んでいた。

 思わず固まって凝視していると、


「ほえ? どうかした?」


 くりくりとした栗色の円らな瞳を丸めて不思議そうに首を傾げる。僕は逃げるように慌てて首を反転した。


「…………いや」


 夕立が降りしきり、辺りの空気は冷ややかですらあるのに。僕の顔は火が出るように熱い。耳や頬はトマトみたいに真っ赤だった。

 釈然としないながらも、彼女はそれ以上の詮索をしなかった。

 僕の鼓膜を揺らすのは屋根に跳ね返る水音ではなく、自らの鼓動だった。



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隻迅☆ひとみ


 今年の収穫も、明日で決まるだろう。

 天気予報は、それを告げた。

 夜半にそれはやってくるが、

 彼は待ち遠しくて、畑に出てまっているのだ。


 そこへ同じ畑で働く共同主がきた。

「今年もそろそろですかねー」少し大きい声で問いかけてくる。

「ああ、やっと降るってんで、乾いた所から染みて流れ出ないように見回りでっすわ」

「去年はだめでしたし、今年は実るといいですなぁ」

「ですね。さっき天気予報聞いて出てきたとこです」

「私もその口ですわ」(ははははっと、笑う男の顔は、ほころびを浮かべている)


 彼らは空に流れる早い雲を仰ぎ、心ここにあらずと心は踊る気分なのだ。


 空を眺めているうちに、ぼつぼつと降り始めた天の恵み。

「ひゃー」腰の手ぬぐいを被って小屋へ走る。

 よく見れば、他の畑にも、同様に走る農夫たちがいた。

 誰もが、その足の運びは踊るように軽やかに見える。

 地面がちゃぽちゃぽと音を立てる頃には、まずまず。

 空に打たれて踊る踊る心、夏から秋に笑うのは誰ぁれ!

 土煙が独特な臭いを立てる中で確信をにぎって家路を急ぐ。


 実りの神は、今年を裏切らなかった。

 心配の種は明日からは、一つへるのである。


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