第116回「軽蔑という言葉を使わずに軽蔑を表現せよ」
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「あの、社長。お言葉ですがスタッフから苦情が出ております。社内の空気を良くするのも仕事の一つだと思いますけれど」
「そうかそうか、それは君に頼んだよ神山君。俺の会社だから俺が何したって自由なわけだ。法律の範囲内で酷使しようが、この会社の在り様と言えばそれまで。嫌なら退職してもらって構わない。無論、自主退社だがね」
秘書である神山は露骨に嫌悪感を顕にして顔をしかめた。眉間にしわを寄せた表情は般若が可愛くなる程の形相で、棘の付いた視線を向けてくる。
だがその程度で引く酒井正晃では無い。神山の表情に正晃が乾いた笑いを零す度、彼女の眉間のしわは更に深く刻まれる。彼女が一歩後退した姿を見た正晃は更に笑いが堪えられなくなる。
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くまくま17分
デートに遅刻した僕は今、彼女に言われるがまま正座していた。よりにもよってアスファルトの上に。
俯きながら時折、彼女の顔色をチラチラと伺い見る。
冷ややかに無表情、ゴミを見るような目付きで僕の事を聘睨していた。
その冷徹を浮かべた視線と目が合う度に、僕の背筋には甘やかな刺激が駆け昇る。
陶然な心地に浸っては駄目なのに。
反省しなければいけない場面なのに。
何か、いけないコトに目覚めそうな自分を持て余していた。
その間も彼女は、仁王立ちでひたすら冷徹に見下ろしていた。
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