第112回「夜という言葉を使わずに夜空を表現せよ」
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梅屋敷
灯りもない暗い道。空を見上げると、億千もの輝きが降りしきる。そんな中、こっちだと言わんばかしの強い一つの瞬きが、僕の進む道を照らしてくれていた。
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時猫一二三
空を見上げた彼女の瞳は、満天の輝きを映していた。
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髭虎
午前1時09分。終電が逝った。
凍えそうな冬の闇の中。買い換えたばかりの腕時計に視線を落とし、私は小さくため息をこぼす。
酒気を帯びた吐息。その生臭さにふと課長のニヤケ面を思い出す。
あぁ、彼はまだ店の近くに残っているだろうか。下心しかない男ではあるが、タクシーくらいは捕まえてくれるだろう。……なんて。
「……下心があるのはどっちなんだか」
こんなはずじゃなかったのになぁ。そんな自嘲が白く霧のように溶けていく。
汚い空気。酒臭い自分。
溢れる何かを堪えるように上を向いて……あぁ、故郷の空が恋しい、と私はまたため息をこぼした。
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みさとみり
こぐま座、カシオペア座、きりん座、ケフェウス座。
ポラリスの方角からの風で、前髪がたなびいた。
僕は、望遠鏡を京子に渡した。京子は待ちきれないという仕草でスコープを覗いた。
「綺麗……」
「ああ……」
全天で星が瞬いている。
僕は、この空のどこかにいる、親友のことを想った。
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くまくま17分
深閑の冬。
白銀の雪原は闇の帳に沈んでも輝きを放ち仄明るい。
そこに満月が加われば、月光で雪原は淡い金色の園へと変わる。
それは寝静まる時刻にあって、黎明よりも明るかった。
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くまくま17分
闇に沈む磯辺。
剥き出しになった巌の舳を白い波濤が手を伸ばして撫で上げる。
黒い海面に満月が世界の果てへと続く回廊を描く。
波間に煌めく月光の回廊は、とても幻想的だった。
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