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第110回「疲労という言葉を使わずに疲労を表現せよ」

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ムッチャーザクッチャー(無茶苦茶


「仕様変更です!」オフィス内に怒号が響き渡る。プロジェクトの納期は明日だというのに試作品さえ出来上がっていない。開発部は連続400日連勤を記録し、発狂する者、屋上から飛び降りる者、辞職願を置いて逃げ出す者が相次いだ。


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くまくま17分


「ふにゅぅ……」


 昼下がりのオフィス。

 セミロングの髪をうなじで纏めた女性が、変な声を出してデスクに突っ伏した。

 終わらせた仕事のチェックも抜かり無く、最後の瞬間まで油断せずにやり切った。

 すると、緊張の糸が切れて心が緩み、口元が綻んで変な呻き声が漏れた。

 仕事の反動が双肩と背中に重くのし掛かる。

 顔を上げる気力もなく、そのまま動けずにいた。


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noname_000


「はぁ…また残業か…」

 ふと時計を見ると午前2時をすぎていた。

 このところ激務が続いて疲れが溜まっている。

 3ヶ月連続の休日出勤に加え、社中泊で14連勤…

 意識も朦朧としてきた気がする。

「ほんっとブラックだよなぁぁ!」

 憂さ晴らしに叫んでみたものの、車内には自分しか残っておらず暗いオフィスにこだまするだけだった…

「お前もそう思うだろぉ?…」

 やり場のない気持ちを少しでも発散させようとオフィスの隅の観葉植物に話しかけた。

 返事はない。

「はぁ…」

 全身の疲れを押し出すように大きな溜め息をつく。

「よしっやるか!」

 そうやって発破をかけると、一気にエナジードリンクを呷ってまた仕事に取り掛かるのであった。


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Eyeless


 俺は走っている。あの子に会うため……いや、あの子に「ごめんなさい」を言うため。

 彼女に打たれた右の頬の痛みは、まだじんわりとその余韻のようなものを残していた。だが、走り続けるこの足は止まらない。息は上がり、噴き出た汗は額を濡らした。脳みそより先に走ろうとする足に追いつくのが精一杯だった。

 思い返せば俺は彼女のことを理解できていなかった。それどころか、理解しようとしていなかった。俺はきっとあの子に依存していたんだ。"何回浮気したって許してくれるはず"と。そんなことを考えていた自分が幼稚で軽率だった。ある意味、彼女の気を引くためにやっていたのかもしれない。でもこんなことただの言い訳だ。だから仏の顔も三度までなんて頭にもなかった。

 時計を見ると40分くらい経っていた。人気のない住宅街の中にある小さなアパート。落ちかけた日に当てられ、2階の窓ガラスが輝いている。ボロ雑巾のような身体を104号室に向かって動かした。吹き出る汗で衣服重く身体にのしかかった。呼吸をするたびに喉には空気が張り付き、頭は割れるように痛かった。足は痺れたように震え、それらは彼女の元へ辿り着くための最後の壁となっていた。

 窓ガラス越しに彼女と目が合った。目尻を涙で爛れさせ、心の奥底を抉られた彼女は何も言わなかった。彼女の両足は地面についていなかった。


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時猫一二三(トキネコヒフミ)


 ――やっと、打ち倒した。

 勝利を実感した途端、身体を広げて地面に沈み込む。

 いつかの母の膝よりも、宿の藁のベッドよりも、ずっと硬いはずなのに。

 どうしてか、いまは何よりぼくの眠気を誘ってくれた。


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赤髪のLaëtitia


 とある授業――


「而してそれが矛盾的自己同一なるが故に、過去と未来とはまた何処までも結び附くものでなく、何処までも過去から未来へと動いて行く。しかも現在は多即一一即多の矛盾的自己同一として、時間的空間として、そこに一つの形が決定せられ、時が止揚せられると考えられねばならない……」


「あ、TGF-βが……」


「ん? TGF-βがどうかしたかね?」


「いえ、TGF-βは様々な細胞の増殖促進や逆に抑制に関わる成長因子と見られていましたが、それはまた脳内神経伝達物質の濃度や代謝回転速度を変化させ、“やる気”や“自発行動”を抑制する様に脳の活動を変調させる事が分かっています。今、僕の脳にTGF-βが大量に分泌されたと、そう言う事です」


「つまり、何が言いたいのかね!」


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