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第108回「春という言葉を使わずに春の訪れを文学的に表現せよ」

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十里木


 その日の朝は透き通る鶯の鳴き声で目が覚めた。伸びをして、忌々しい携帯のアラームを鳴る前に解除する。

 そうだ、庭に梅の木があったはず。

 私は、躊躇なく窓を開けて梅の木へと目をやった。

「仕事帰りに桜餅でも買おうか」

 今日も仕事を頑張ろう、と思わずやる気に火をつける。

 アラームを鳴らす仕事をとられた携帯が不機嫌だとばかりに花粉のニュースを知らせることに気づかずに。


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時猫一二三(トキネコヒフミ)


 椿が落ち、梅がこぼれ、桜も散った頃のこと。

 まだ真新しい制服を着た、学生たちに逆らって、ぼくは今日もぎゅうぎゅう詰めの電車に飛び込んだ。

 もみくちゃラッシュを泳ぎ切り、なんとか駅に着いたけれど、妙にズボンが軽い気がする。

 財布が無い、と気付くと同時に。

「あの、これ落としましたよ」

 桃色の声がした。

 振り向いて、驚く。一目で気付いた。

「──ちゃん?」

 むかしむかし、初めて恋した女の子。

 今年二度目の、同じ季節が来るような、そんな予感がした。


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赤髪のLaëtitia


 朝の空はとても澄んだ青色で、私はブザーの音で「はいはい」と洗濯物を運び出す。

 外はまだしっかり寒い。手早くパッパッと洗濯物を干していく。終える頃には、干したタオルが凍っている。

 それでも晴れなら、お昼に取り込む頃にはすっかり乾いているものだ。

 これが私の毎日の日課。

 その日も私は朝、洗濯物を干していた。空はどこか水色だ。

 吹き込む風に「あれ?」と思う。

 そういえば、だいぶ雪が解け地面が見えてきた。草の緑が懐かしい。

 私はパッパッと洗濯物を干し終えた。

「あ!」

 ぴゅうと吹く風が、干したタオルをひらひらと揺らしていた。


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くまくま17分


 三月の北海道は未だ雪に閉ざされ冬の気配も色濃い。

 しかし中旬も過ぎれば雪の下から地表が顔を出し、萌え出る土の匂いと雪の匂いが混ざり合って瑞々しい香りが大気に満ちる。

 彼岸も明ければ日差しに陽気を醸し、風も温もりを帯び冬が帰り支度を始める。

 聞こえて来る新しい季節の足音はもう近い。


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