007 ダンジョン1層(2)
マイクに1層目の網羅を打診すると難色を示された。
「うーん、脇道をもうちょっと進むのは賛成だが、地図作るほど歩き回る必要はあるか?」
「網羅するほど歩き回ってラットを倒せば、2層目はもっと楽に進めると思うよ」
「広さにもよるだろ。ある程度進んでも先が見えないなら、2層目に行った方が気が楽だ」
「飽きそうだ」
リックにも飽きると言われてしまった。広さが分からないと先に飽きてしまうか。
魔物も一種類しかいないから、戦い方が固定しすぎるのも良くないか。
マイクとリックのモチベーションも大事だから、今回の提案は取り下げた。
地図を作る道具もないし、地図作成は私が12歳になってから一人で作ればいいだろう。
魔石換金で少量の硬貨は集まっているが、全員の食事代を稼ぐ程ではないし、今後は装備購入の為にも、残飯集めによる食料確保は重大だ。
冒険者になったんだからと怠けて買い食いすると、ちっともお金が貯まらないことになる。
だから、当分残飯集めを止めることはないだろう。
そして鍛冶屋街ではガラクタ集め。
私としても戦力になる武器が欲しい所だが、5歳児が持てる武器が捨てられていることなんて、まずない。
でも、マイクとリックの武器がいつまで耐えられるか分からないので、出来れば予備の武器が欲しいところ。
折れた剣なんかはあるんだけどナイフなんて根本から折れてて、使い物にならない。
ガラクタをガラガラと崩しながら漁っていたせいか、店から屈強な男が怒鳴りながら出てきた。
「ごぉらぁああぁぁ!!! なに勝手に漁くってんじゃ、ガキども!!!」
「ひいっぃ―――」
赤ら顔の髭面が怒ると、正しく鬼の形相だった。
涙目のマイクと怯えるリックが震えながら逃げようする中、私は叫んでいた。
「だってーーーー!! 冒険者が武器もないんじゃ、戦えないじゃないか!」
「あ゛ぁ!? ……お前ら冒険者なのか?」
冒険者と聞いて、鬼の形相が和らいだ男にマイクとリックはとっさに鉄級許可証を見せる。
マイクたちの貧相な姿と武器を見て、顔をしかめた男に、少しは付け入る隙や情があるのではないかと言い募る。
「孤児の子供が冒険者になるには、捨てられた武器でも拾って使わないといけないんです。捨てた武器を拾ったっていいじゃないですか」
「……スラムの連中が味を占めて、拾い集めるようになればこっちが困るんだよ。
それに冒険者が命を預かる武器を、いつ壊れるかもしれねぇ武器に頼ってんじゃねえよ」
「じゃあ、どうすればいいですか? 武器なんて高くて買えないよ」
「むむぅ。……ガキどもが鉄くずを集めて来たら、安い武器と交換してやる」
しかめっ面の顔でそう言った男の顔は、火に焼けた赤ら顔とは違った朱が差していた。
ニヤリと笑いながらマイクたちを見ると、喜びと期待で目を輝かせている。
このダンジョン都市は廃棄物が多い。
ダンジョンで獲れる素材と冒険者の散財の恩恵か、物と金に溢れ、ゴミ箱を漁れば残飯や穴の開いた鍋や鉄くずを手に入れることもあった。
「じゃあ、鉄くずを集めたら武器と交換しに来るよ」
鉄くずを集めに駆けだした私たちに男は最後までしかめっ面だった。
数十日後、3人で都市中のゴミ箱から鉄くずを集めると鍛冶屋に行き、鍛冶師の男と交渉した。
後日、中古の安い短槍と棍棒、3本のナイフと交換してくれた。