005 ダンジョンへ行く
翌朝、マイクとリックは武器と布袋を背負い、ダンジョンの前にいた。
ダンジョン前には警備の憲兵が立っていたが、鉄級許可証を見せるとすんなり入ることが出来た。
ダンジョンの中は意外と綺麗で整地された壁には照明が付けられ、通路内を明るく照らしていた。
人が良く通る道は広いのに対して、脇道に続く道は狭く、薄暗く続いている。
昨日の受付嬢の説明通りだった。
1層目の大通りでのラットの接敵は少なく、2層目へ続く道が分かりやすいために、そのまま下に降りてしまう人も多い。
だが、脇道に逸れると、途端にラットの接敵が多くなるので、素人はそこで光が届く範囲でラットを倒した方が安全だと教えてくれた。
人のいない脇道に逸れたマイクとリックは周囲に人の目がない事を確認してから布袋を下ろした。
布袋から出てきたのは私だ。
5歳児の小さな私は、布袋に入ってリックに担がれてダンジョンに入ってきたのだ。
年長組には猛反対されたが、網罠を投げる人がもう一人必要で、あのグループの中で一番私が上手かったのだ。
投げる時に網を大きく広げるコツがあるのだ。
逃げ足も小さくてすばしっこいので危なくなったら、いの一番に逃げると言っている。
それでも心配で泣きそうなシーナに、危ないことをマイクたちがやりそうになったら止めると約束して行かせて貰えた。
「さあ! ラットを仕留めるぞ!」
脇道を慎重に進みながら暗がりへと目を向けると、暗闇から赤い目が光っているのが見えた。
「ラットだ! リック、盾を!」
私の言葉に二人は、はっと気付きリックが盾を前に構えると、暗闇から飛び出た影が盾にぶつかる。
怯むことなくラットを受け止めるリックを下がらせて、網を投げた。
網に絡まったラットは慌てて暴れているが、網から抜け出すことは出来ない。
その間にマイクが短槍で一突きして、リックが棍棒でタコ殴りすると、しばらくしてラットは動かなくなった。
動かなくなったラットを見ると、体長は一抱えほどもあり、鋭く伸びた前歯に噛まれたら痛そうだった。
色々検分しながら解体して、心臓にある小粒の魔石を手に入れた。
初討伐に喜ぶ二人を見ながら、ここでなら、なんとか三人で倒すことが出来るだろうと安堵した。
大きく脇道を逸れて、照明の届かない場所まで入ってしまうと危険だが、浅い場所で行動する限りは一匹でしか近づいてこないラットを仕留めるのは簡単だった。
その日は5匹仕留めて終わった。
ラットの使える素材は魔石しかなかったので、ギルドの受付嬢リーリャに買取りを頼むと、褒めてくれながら銅貨5枚に替わった。
パン5個分にしかならない微々たる金額だったが、初めて稼いだお金を手に取りマイクたちは弾んだ足取りで廃屋に帰ったのだった。