047 リーリャ
私たちがグラスに苦戦しているとき、連日大量のグラスをギルドに持ち込む私たちは厄介者だった。
二束三文でもお金になるので素材の買取拒否も出来ずに、ギルド職員は草汁まみれでグラスに埋もれていた。
そこで容易に秘密を吐く者もいれば、増員を呼んだ職員もいた。
気が付くと10層目支店の受付にリーリャが座っていた。
「あれ、リーリャもこっちに来たの?」
「あ! は、はい。何でも最近忙しいから増員が欲しいとのことで、新人だった私が10層目支店に転勤になりました」
「それじゃあ、今後はリーリャに素材買取をお願いするよ」
「はい、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げたリーリャは謙虚だ。グラスの仕分けを他の職員に押し付けられても、コツコツと熟すのだろう。
10層目支店のギルド職員は庶民層の人間が多い。
大らかで陽気で社交的で冒険者とも親しくなりやすい。
反面、お喋りで、するりと誰かの秘密を聞き出しては、悪意もなく誰彼構わず話してサボり癖がある。
陽気な冒険者だったら、このギルド支店は好きだろうが秘密が多い冒険者は避ける。
自分の秘密を聞き出されて、暴露されては敵わないからだ。
また、10層目支店に持ち込まれる魔物素材は意外に少ない。
ダンジョン攻略より魔物素材を獲って生計を立てる《農家》や《漁師》といった冒険者は、独自の販売網を持っているからギルドに持ってこない。
大鎌や銛を持って収穫に向かう《農家》や《漁師》はその後、近隣の牛飼いや食堂に素材を売りに行く。
販売網を持っていない冒険者だけが10層目支店に素材を持ち込んでくる。
だから職員は結構暇で、サボっている者が多い。
その中で、私たちが持ってきたグラスの量は職員たちの許容範囲を逸脱したのだろう。
もっと暇なダンジョン入り口支店から職員を呼んだわけだ。
ついでに、私は結構ギルド職員やダンジョン、冒険者のことを知っているのは、休日に【隠密】スキルで隠れながらギルドに潜伏して、お喋りなギルド職員や酒を飲んで口が緩んだ冒険者の話を盗み聞きしているからだ。
孤児院の通いが無くなってからは、日課の訓練が終われば市場や防具屋のセルジュの所などに行っていたが、一番情報が集まる場所がギルドだった。
それからは定期的にギルドで情報収集を行っている。
その後私たちは大量の雑草グラスをギルドに持ち込むことを止めて、《農家》をやっているオジサンたちの紹介で、郊外の牛飼いに下すようになった。
「あんれまぁ~、ちっこいのに働きもんだなぁ~、うちの倅にも見習ってほしいもんだべ。
『俺は親父みたいな《農家》にはならん! 冒険者として一旗揚げるべ』とかなんとか言って、先の階層に行っちまったが、まずはグラスぐらい刈り取れないようでは冒険者にもなれんわな」
紹介してくれた《農家》のオジサンはそう言って、一服しながら休憩している。
麦わら帽子に防具も付けていない服、手には大鎌しか持たず、肩には手ぬぐいを引っかけている姿は、普通の農民の姿だか、ここはダンジョン13層目だ。
それだけ手慣れた作業と化して危険もないから、防具も必要ないのだろう。
熟練したプロの動きと言うのは、それだけで尊敬出来るものだ。
盗める所は盗んで、倒したグラスを背負子や袋に詰めると、夕日の沈む中、郊外の牛飼いの家に持ち運ぶ。
量にもよるが大銅貨5枚分になった。
「ダンジョンの魔物を餌にすると牛の質が良くなるんだ。魔物の肉よりは劣るが、他の都市に売ればそこそこの値段で売れるんだぜ」
牛飼いもグラスは干し草にして保存しているので、いくら持って来ても構わないようだった。
「お前さんらの使う荷運びはよう運べるのぉ、どこで買うたんか?」
ニコニコ仕事終わりに尋ねてきた《農家》に、牛飼いへの紹介のお礼もかねて、防具屋セルジュの店を紹介しといた。
彼も私たちの背負子を見て、声を掛けてきたのだろう。
しばらくは薬草グラスはギルドで換金して、雑草グラスは牛飼いの元に売りに行っていた。
しかし、私が魔力感知でグラスの見分けができるようになると、雑草グラスを刈るのは止めた。
やはり手際では《農家》の人たちに劣るし、牛飼いの所まで持っていくのは重労働だった。
薬草グラスを見つけるためにフロアを探し歩くようになると、野菜グラスに遭遇するようになった。
野菜グラスは種類が多く、個性もあるので様々な攻撃方法で襲って来る。
しかし倒す方法はグラス共通で、生えている根を切り落とせば動かなくなる。
攻撃範囲や射程距離、攻撃方法が違う中で、的確に根を切り落とすのは至難の業だ。
普通の冒険者は実や葉を切り落として、素材価値を落としてしまう。
《農家》を見ると、熟練の技で野菜グラスの攻撃を躱し、包丁で根だけをスパスパと上手に切り落としている。
私とマイクが野菜グラスの根の切り取りに挑戦したが、なかなか難しい。
私は【隠密】と【短剣術】を使って、まあまあ成功したり失敗したりを繰り返して、それぞれの野菜を把握していった。
マイクは槍での根の切り落としが難しくて、実や葉も一緒に切り取っていた。
上手に根を切り落とせた野菜グラスの素材は食堂などに売りに行ったが、マイクが切り落としたクズ野菜は持ち帰ってシーナに料理に使ってもらった。
シーナは段々、食材費が掛からなくなっていることに喜んだ。
しかも魔物素材の食材は通常の野菜よりおいしい。
魔力が籠っているからなのか、味をしっかり感じて、栄養抜群、活力が漲る。
だからダンジョンの魔物素材は何でも高値で、他の都市に輸出されていく。
マイクもまあ野菜グラスを刈り取れるようになると、次はフィッシュ攻略に取り掛かることにした。




