044 タリスマン
キラービーの巣を捕獲すると、屋敷に戻って蜂蜜を採取した。
黄金に輝く蜜を皆、目を輝かせて見ている。
蜜を舐めると、とろりと強烈な甘さが口に広がる。
皆で夢中で舐めていたけど、貴重で高価な食材だ。食べ過ぎないように残りの蜂蜜はビンに詰めて、保管することにした。
大金を手に入れたわけだが、荷運び用の背負子を作ってもらうことにした。
周りの冒険者を見ても、背負子を使っている人はいない。一から注文しないといけないだろう。
武器防具屋が立ち並ぶ区域を歩いて、手ごろな店を探す。
防具屋か細工屋か、そう言った手先に器用な職人に頼むのがいい。
商品の作りがしっかりしていて丁寧だけど、客の入りが少ない店を狙って店主に交渉した。
見つけたのは不愛想で寡黙な防具屋の男だった。
荷運び用の新しい道具の背負子の説明をしたら、不愛想ながらに興味を示したので試作品を注文した。
前金を払って試作して、使い心地を確認しつつ完成品を目指す。
一か月ぐらいで完成したらいいけど。しばらくは週一で店に通って、試作の様子を見た方がいいだろう。
帰り道、ふと子猿神が言っていたことを思い出した。
『キッキッキッ、お前10層目まで行ったな。もっといい魔石をくれたら、ステータス表ももっと詳しくなるぞ』
あまり期待しないでワイルドボアの魔石でも奉納して帰るかと、神社に立ち寄って魔石を賽銭箱に投げ入れた。
名前:アン
年齢:6
地位:孤児 鉄級冒険者
レベル:10
体力:17
筋力:9
魔力:24
知力:15(+1051)
俊敏力:25
魔法:紙魔法(火、水、風) 呪文魔法(火)
スキル:俊足2 投擲3 短剣術3 夜目2 マップ2 隠密3 魔力感知2 急所1
うおっ!、なんか一気に項目が増えたぞ!
ますますゲームみたいなステータスになっている。
しかも私の今の力が数値で分かるのは助かる。
習得した魔法も書かれていた。
予想外に使えるステータスに子猿神がすごいというより、賽銭システムがすごいのだと納得した。
力の上昇はレベルによってしか上昇しないのだろうか、鍛えればレベル関係なく上昇するなら助かるが、検証しないといけないだろう。
ちょっと異常なのが、知力の数値。
かっこの中の数値は記憶が関係しているのだろうか?
確かに色々使えて便利ではあるが、ここまで高い数値なのか。
まだ十分に使えていない記憶があるのかもしれない。
***
それからは背負子が完成するまで、12層目で魔物をチマチマ倒しつつ私は防具屋に通って背負子について助言していた。
防具屋の男の名前はセルジュ。老け顔の20代後半の若者だった。
セルジュは私に慣れてくるとぽつぽつと喋るようになった。
腕は良くて師匠から独立したのは良いが、不愛想な顔と無口が災いして客入りが悪いらしい。
典型的な職人気質の男だった。
仕事が無くて暇だったことあって、一か月すると背負子が完成した。
丁寧な仕事で作りもしっかりして、長く持つだろう。
今後はセルジュに防具を頼んでもいいかもしれない。
早速背負子を背負って、ダンジョンに向かった。
行きは背負子も空なので軽く、魔物と出会えばすぐに下して戦闘を開始する。
戦いが終わると、魔物を解体して素材を麻袋に入れてから背負子に固定すれば、随分多くの素材を持てるようになった。
後は重さとバランス、帰りの魔物に注意するれば、以前より二倍近くの素材を持ち帰れるようになった。
気が付けば夏に入り、私は7歳になった。
大量の素材を売って、ある程度溜まったお金でカレン用の装備を買うことにした。
魔力触媒もない状態で治癒魔法を使っていたカレンは天才だが、魔道具で魔力を抑えられるなら抑えたい。
しかし、魔道具はべらぼうに高かった。
簡単に手の出せる物ではなかったので、長期間実入りのいい12層目で我慢して魔物を倒していた。
やっと魔道具を買える資金が出来たのだ。
カレンと一緒に魔道具を探すがいいものが見つからない。
普通の武器屋や防具屋の魔法使い専用の杖や本を見るが、貯めた資金より高い物か、魔力感知でただの棒と変わらない物ばかりだ。
ダンジョン都市とはいえ、魔法を扱う店は少ない。
高級な店舗か、暗く怪しい店しかない。
私たちが入れるのは怪しい店だけだ。
これで偽物を掴まされたら大損だった。
慎重に商品を見極めなければいけない。
狭く薄暗い店に入ると奥には、典型的なつばの広い黒い帽子、黒いマントを着た魔女の様な老婆が座って眠りこけていた。
近くには黒猫がニヤニヤと笑いながら金色の目を向けてくる。
気味が悪いが、無視して狭い店内の商品を見て回る。
魔力感知をかけると、店内は魔力で充満していて酔いそうだ。
しかし、この中からカレンに合う魔道具を探すのは難しそうだ。
店内には雑然として埃を被り、本や杖、宝石、水晶、何かの魔物のはく製、ビンに入った目玉、角、牙、皮が並び、積み上がり、吊るされている。
杖がいいのか、本がいいのか…、しかし、最初は無難に杖がいいかなぁと考えていたら、首飾りが目についた。
宝石の付いた派手なものから、シンプルなチェーン状の物もある。
その中で、六芒星の首飾りが気になった。
宝石も付いていないシンプルなモノだったが、引き付ける魔力を感じる。
魔力にも色を感じる時がある。
輝いていたり、色が変わったり虹色のように混ざり合ったり、常に一定というわけではなく変化している。
その中で、私は自然とその首飾りを手に取っていた。
「アン? 君もそれを買うのかい?」
「えっ?」
振り向くと、カレンは逆三角のシンボルが付いた小杖を手に持っていた。
カレンと似た魔力の色を纏った小杖は、よく手に馴染んでいるように見える。
「ヒッヒッヒッ、買うなら早く金を出しな」
奥のカウンターから、いつの間にか起きていた魔女が声を掛けてきた。
購入価格はちょうど持ち合わせたお金全部だった。
余裕を持ってお金を持って来ていたので、完全に予算オーバーだ。
しかし、買わないという選択はしたくなくて、結局買ってしまった。
大銀貨数枚分が一瞬で無くなり、貯蓄はすっからかんだ。
手の中の六芒星の首飾りを茫然自失ぎみに見ながら、帰り際に言われた魔女の言葉を思い出していた。
『ヒッヒッヒッ、この店のモノは自ら主を見定めるのさ。
必要な時に、必要な者の元へ買われていく。
しかし、主がタリスマンに惑わされちゃあ、訳ないね。精進しな』
魔力の魅了、侮りがたし。
二度とあの店には近寄らないようにしよう。




