003 ギルドへ行く
昨日はシーナに同行することを心配されたが、ついて行けることになった。
私が冒険者として必要なこと、どうしたらなれるのか聞いても、マイク達が答えられることが少なかったからだ。
マイクも一定の年齢になって冒険者ギルドに行けば冒険者になれるらしいが、それ以外は知らないようだった。
なら、ギルドに行って聞いてみようと私が言った。
冒険者になるために条件があるかもしれない。
もうマイクたちは冒険者になれるかもしれない。
私がそう提案すると一緒に連れて行ってくれることになった。
「いいか、アン。逃げる時は素早くリックの背中に引っ付いて離れるんじゃないぞ。それが一緒に行く条件だ」
「うん」
心配そうなシーナに見送られながらリックの大きな手を繋ぎ、塀の外へ出て行く。
まず、マイクとリックに連れられ向かったのは飲食店が立ち並ぶ繁華街の路地裏だった。
朝を過ぎた時間に来たからだろうか。前に見た大通りと比較して人通りも少なく、静かなものだった。
湿った土の地面にゴミが捨てられ、生ものが腐ったすえた臭いの中、無造作に酔っ払いが座り込んでいる。
裏路地を通り過ぎ、マイクたちは店裏のゴミ箱を漁り、比較的食べられるものを麻袋に入れていく。
繁華街の規模が大きく、食べ残しのゴミも多く、比較的まともな食べ物が手に入っていた。
皆の食料が確保できたところで、繁華街を通りすぎ、向かったのは冒険者が多い場所。
繁華街のそばなので、すぐ着くことが出来た。
マイクが向かったのは冒険者ギルドと言われる建物。
冒険者をまとめる組織で、ダンジョンで獲れた魔物の素材やお宝を買い取ったり、魔物の討伐依頼をする冒険者を支援する組織だ。
ダンジョンに入る為には、ギルドに入って冒険者になる必要があることはマイクも知っていたが、詳しい方法は知らなかった。
なんせ怖そうな大人の冒険者がたむろしている建物だ。
スラムの子供がうろうろしていたら何をされるかわかったもんじゃない。
でもマイクたちが冒険者になるには必ず行かないといけない場所だ。
スラムの先輩たちもマイクぐらいの年に冒険者になったらしいから、マイクも冒険者になれるはずだ。
リックに手を引かれた私を連れながら、マイクとリックが恐々と木造の建物に入る。
広いホールにカウンターが並び、冒険者の対応をしていた。
カウンター前の広いホールには机や椅子が並び、冒険者たちが談笑している姿が見られる。
お酒を飲んで騒いだり、粗野な態度をしている人は見かけなかった。
思ったよりまともな場所に安堵しながら見まわしていると、カウンターに座る受付の人にマイクが声を掛けた。
「あ、あの。俺たち冒険者になりたくて来ました」
「うん? 冒険者志望ってことかな。君ら孤児だね。冒険者には12歳からじゃないとなれないよ」
「俺とリックはもう12歳だぜ」
「ふーん、君はちょっと小さいけど、後ろの子は大きいからいいか。
新規登録には本当はお金が必要だが、孤児は特別措置で無料だよ。
最初の階級は鉄級だ。これはダンジョンの1~10層までの入場許可証になるから無くすなよ。再発行には大銅貨3枚が必要になる。
1層にはラットがいる。これなら君らでも倒せるだろう。心臓にある魔石を買い取るから持ってきなさい。ただし、噛まれすぎると病気になるから気を付けなさい。
こいつを楽に倒せるようになってから下層にいくことを勧めるよ」
受付の人はそう言いながらマイクとリックの名前を聞くと、席を立ち、しばらくすると薄い鉄板に何か刻印された物を渡した。
「さあ、これで君たちも冒険者だ。末長いお付き合いになることを願うよ」
いとも簡単に冒険者になれたマイクたちは困惑していた。
これだけ手渡されて、ダンジョンに入られても困る。
私は話を切り上げた受付の人に声を掛けた。
「あの! ギルドやダンジョンの詳しい話を聞かせて貰えませんか」
「うん? 君はまだ小さいから冒険者にはなれないよ」
「はい、でも今から勉強して立派な冒険者になりたいです」
「ははっ、偉いね。ならうちの新人が説明するからよく聞くといいよ」
そう言うと受付の人は、若い少女を呼ぶと入れ替わりに去って行った。
「はじめまして、新人受付係のリーリャと言います」
リーリャのたどたどしくも丁寧な説明を質問も交えながら聞く。
冒険者ギルドは、冒険者を支援するため各地に設立された相互扶助の組織である。
主に冒険者に魔物の討伐依頼、素材買取り、ダンジョン踏破の支援を行っている。
その他支援は各地ギルドによって違うが、このダンジョン都市だと、孤児出身の子供の新規登録を無料で行う程度である。
場所によっては戦闘訓練や武器の貸出しなどをしてくれる。
冒険者には階級が存在して、下から鉄級、銅級、銀級、金級、白金となっている。
孤児出身者は鉄級から上に行くことは滅多に居らず、上の階級には戦闘訓練を受けた者や魔法が使えないと難しい。
剣や魔法を教える私塾は多く存在しているがお金が莫大にかかる。
ダンジョン1層目のラットは素人でも倒せるが素材は微々たるものである。
ここのダンジョンは50層まであり、各0番階層目にボスが存在する。
各5番階層目には宝箱が多く見つかるが、トラップも多いので注意が必要。
など、魔物や魔法の存在に違和感を覚えながら聞き終えた。
丁寧に説明してくれたリーリャにお礼を言って、ギルドを出た。