002 スラム生活
あれから、連れられた眼光鋭い少年のマイクがリーダーをしているグループで、孤児の子供達と一緒に暮らしている。
住んでいる廃屋は広い敷地と屋敷の片隅にある崩れかけた物置小屋だ。
屋敷に人は住んでおらず、長年放置されているのか敷地には草が生え、屋敷は固く閉ざされている。
マイクは決して屋敷に近寄らず、孤児たちにも近寄らないよう厳命していた。
崩れかけた廃屋に皆で片寄せ合うように住んでいる。
敷地内は塀と門で囲まれており、壊れた塀の穴からは子供しか入れず、他の住人には知られることなくマイクのグループが安全に暮らすことができていた。
グループのメンバーとして、リーダーのマイクは勝気な眼光と常に前に出るリーダーシップで皆を引っ張っている。
彼と一緒にいることが多い、身体の大きいリック。
女の子のシーナは病弱ぎみだが、優しくて皆のお母さん的存在だ。
後何人かいるけど、この3人が一番年長で引率的存在だ。
そして私は推定年齢5歳の女の子。
名前も覚えていなかったのでシーナにアンと名付けられた。
……どうも自分の姿を確認できないので自覚はなかったが、そうらしい。
やけに小さな手足だと思った。でも全然5歳児という自覚はない。
だって、こんな考え方をする幼児がいるだろうか?
私の中にある知識だとありえない。
私の中にあるわずかな記憶とシーナに教えてもらう常識には、違和感を覚えることが多かった。
でも、それが何故なのか分からない。
グループの中で一番年少の私は塀から出ることを禁じられていた。
シーナの手伝いとして料理をしたり、洗濯をすることが多かった。
マイクとリックが持ってきた残飯に火をかけて、なんとか食べられるものを皆で分けて食べている。
洗濯も空き地の井戸から水を汲んで水洗いして干すだけだ。
皆が追いかけっこをして遊んでいるのをシーナと見ていると、ふと疑問に思ったことをシーナに聞いてみた。
「シーナ、マイク達より年上の人はこのグループにはいなかったの?」
「いたよ。でも、彼らは冒険者になって、ここから出て行ったの」
「冒険者?」
なんだ? そんな夢のような者がいるのか。
「どこに冒険に行くの?」
「ダンジョンに入って、魔物の素材やお宝を手に入れるのよ。
ここにだってダンジョンはあるのよ。
だってこの街はダンジョン都市だもの」
なんか現実感がないなぁ……。
夢のような現実感のない話に聞こえてしまう。
しかし、シーナが嘘を付いているようには見えない。これがこの世界での常識なのだと教えてくれる。
「じゃあ、マイクとリックやシーナも冒険者になったらいなくなるの?」
「マイクとリックは分からないけれど、私は身体が弱いから冒険者になるのは無理ね。
大きくなったらどこか仕事を探さなくちゃいけないわ。
でも、こんな学のない孤児を雇ってくれる所はなかなかいないよね。
だから皆、冒険者になって死んでしまうんだわ」
孤児もなかなかハードな人生らしい。
冒険者として生き延びるのはごく一部なのだろう。
そして冒険者にすらなれない孤児はもっと悲惨そうだ。
順調に成長すれば私も冒険者になるしか道がないようだった。
まだ5歳児だから冒険者になるには時間があるけど、だからこそ入念な準備が必要だな。
それに、このままじゃ死ぬ可能性が高いマイクやリック、シーナの生きれる道を探したい。
まずは情報収集。
帰って来たマイクとリックに普段していることと冒険者について聞いてみた。
「普段はご飯集めに大人に見つからないように店裏を回っているな。大人に見つかると折角集めたご飯を横取りされるから危ないんだ。
俺とリックは走って逃げれるけどアンはまだ逃げ切れないから外に行っちゃダメだからな。
冒険者にはなるぜ。それが俺たちの夢だからな!」
「じゃあ、冒険者になったらここを出て行くの?」
悲し気に聞いてきた子供にマイクは言った。
「いや! 俺はここから出て行かないぞ。冒険者になって金持ちになって、お前らを養ってやる」
冒険者になると孤児たちと一緒にいられないのだろうか?
勝気に宣言したマイクに年少の子供たちは大喜びだった。
マイクの皆を守ろうとする気概は幼いながらに大したものである。
そんなマイクに私は提案した。
「マイク、明日私も外に連れて行ってよ」