017 風邪薬
よろず屋ボルディを訪れると、相変わらず胡散臭い笑みが迎えてくれた。
「いらっしゃい~。もう来たんだね。そんなにボロボロで来たってことは素材を全部手に入れたのかい?」
「ああ! 全部手に入れた。これで風邪薬を作ってくれ!」
「はいはい、これから作るのにしばらく時間が掛かるから、そこらに座って待っててね」
急かすマイクからボルデは素材を受けとり机に並べる。
隅の椅子に座りながら見ていると、何やら図ったり刻んだりしながら鍋の中に入れている。
いかにも手慣れた作業であったが、彼は魔法を使っているようだった。
素材が淡く光り、粉末に変化して手も使わずに鍋に入っていく。
幻想的で非現実的な夢のような光景をボーっと見つめていた。
疲労がピークに達していたのか、いつの間にか眠っていた。
「おやおや、おチビさんはずいぶんお疲れのご様子だね。僕のベットにでも寝かせておやりよ」
私は風邪薬が作り終わっても目を覚まさず、リックに背負われて廃屋に帰った。
マイクはすぐさまシーナに風邪薬を飲ませると、シーナの熱は下がり風邪は治った。
ボルディはインチキ屋ではなかった。
でも、ホイホイ利用する店ではないな。初回特典であれだけを要求されたのだ。命の危険を冒すほど利用する店じゃあない。
しかし、今度は私が寝込んでしまった。
スネイクに吹き飛ばされて壁に激突した時に打った背中が痣だらけだ。血も吐き内臓を痛めていた。
無理をしなければ大丈夫かなと思ったがシーナが激怒した。
私は床から出ることを禁止され、マイクとリックは傷が癒えるまでダンジョンに行くなと厳命する。
だが金欠の今、収入源が無くなるのは痛い。
マイクがダンジョンには行かないといけないと説得すると、今度はシーナが私の代わりに行くと言う。
これには皆が反対した。シーナの風邪は治ったが虚弱体質はそのままなのだ。
責任を感じているのは分かるが留めて、マイクたちには一層目での狩りを約束させた。
今の二人なら討伐数は減っても、ラットに後れを取ることはないだろう。
シーナは甲斐甲斐しく私の世話をして、家事に精を出していた。
*****
薄暗い部屋の藁ベットに一人で寝ていると、しんしんと寒さが身に沁みた。
廃屋内には薪で火が焚かれていたが、隙間から寒い風が吹き込んでくる。
毛布をぎゅっと抱き込んで風を防いでも、冷気が忍び込んでいた。
このダンジョン都市は、冬は寒くはあるが雪はあまり積もらない地形のようだ。
年中組は空き地で元気に遊んでいた。
マイクとリックもダンジョンに行ってラットを倒している。
シーナだって病み上がりなのに、水を汲んだり、料理を作ったり忙しそうだ。でも、元気に笑って家事をしているからうれしいのだろう。
私も身体を動かして温まった方が気が楽なのだが、背中の青紫痣が治らずシーナにベットから出させてくれない。見た目ほど痛くはないのに。
内臓の痛みもシーナが柔らかい料理を出してくれるので問題なかった。
しかし、マイクも元気なシーナに敵わないのか、しばらく休んでいろと言われてしまった。
マイクはつくづくシーナに弱い。
しかしシーナが風邪で寝込んでいた時の重い空気はなくなっていた。
皆は相変わらず元気で、シーナがちょっと前向きになったかな? と思う程度だ。
この世界に来てから、こんなに暇なのも初めてだ。
路地でマイクに拾われて、孤児として皆で必死に生きている。
分からないことだらけで困ることもあるけど、目の前にはダンジョンがある。
コツコツと努力すれば暮らしていけるだろうし、中に何がいるのかワクワクドキドキ楽しんでる。
だから、大丈夫。ここでも暮らしていけるだろう。