013 よろず屋ボルディ
「おや、ずいぶん小さな客が来たね。ここは何でも揃う店で、僕が店長のボルディだよ。ゆっくりしていってね」
ニコニコ笑う男の周りにはベットや机、椅子、竈が置かれ、ごちゃごちゃと物が散乱している。
ボルディがここに住んでいるのは分かるが、商品となるような物は見えず店のようには見えなかった。
「何を売っているの?」
「何でもさ。ただし、求める物によって対価はそれ相応に必要だよ」
胡散臭い言葉だ。人を惑わす悪魔のような甘言で対価は私たちの魂と言われても驚かない。到底払える物ではないだろう。
ダンジョンに店を構えている事自体、異常な状況だ。
気まぐれな罠に飛び込むより堅実に回避しようと、後ろを振り向くとマイクが願いを口にしていた。
「シーナの風邪を治してくれ!」
純粋にシーナを想って口にしたことだろうが頭を抱えてしまいたい。
「いいだろう。初回特典でお安くするよ。
我が店は商品の素材をお客様に持ち寄っていただいて商品を作るのが特徴でね。
風邪薬の素材を持ってきてごらん。
素材はラットの尻尾、スライムの体液、一角ラビットの角、バットの羽、スネイクの皮だよ。
全部5層目までの魔物だから、お安いでしょう」
ニコニコと笑いながら、さも簡単なことだと言う男の言葉はやはり罠だった。
上手く行きそうと思わせる要求をしている。でも、危険度が跳ね上がっている。
しかし、治せる手段を聞いてしまった。
出来そうだと思ってしまえば、いくら危険だとしても進んでしまうのが人の業だ。
すでにやる気に満ちているマイクと、今の金欠の打開策に乗り気のリックを止められそうになかった。
「絶対素材を持ってくるから、治る風邪薬を作ってくれよな!」
「ええ、品質は保証しますよ」
そうしてよろず屋ボルディの店を辞した。
私はマイクに忠告した。
「マイク、5層まで行くのは考え直さない? 現状シーナに命の危険はないし行った事もないダンジョンを無防備に進むのは自殺行為だ。せめて慎重に進まないか」
「他の冒険者を見ているが、俺たちはすでに5層目まで行ける実力はあるぜ。
それを一層目で留めていたのは、ラットの稼ぎが良かったことと、アンの一層目網羅に付き合っていたからだ。必要性があるなら俺は先に進むぞ」
マイクの意思は固かった。
止めても無駄そうだ。ならば最速で道案内をしよう。
それがリスク回避の方法だと信じて。
「分かった。なら【マップ】で道案内をするからついて着て」
リスクは最小限に、始めるならいち早く。
私たちは2層目へ降りて行った。