009 スラムの洗礼
人がちょっと順調に進んでいる時、妬んだ人間が邪魔してくることもある。
安物ながらも拾ったものではない武器を持っている私たちに目を付けたのだろう。
スラムの住人は小さな子供が武器を持っていたら、横取りしてしまおうと考えるようだ。なんとも低俗な考えだ。
いつものようにダンジョンで魔物を狩って、魔石を換金してから残飯漁りをしていると、貧相でボロボロの服をきた二人の大人が立ち塞がり、私たちを脅してきた。
「おうおうっ、ガキがチンケなモン持ってんじゃねえか。
お前らには勿体ねぇ。俺たちが使うから寄こせや」
自分たちより下の者が、反抗するとは思ってもいない傲慢な態度だった。
マイクは無言で警戒して、目を合わせて合図を送ると、一斉に逃げ出した。
私はリックの背中に掴まり運んでもらう。
二手に分かれたマイクとリックを大人はそれぞれ追いかけてきた。
リックは路地を走り回り逃げ切ろうとするが、私という負担と大きな体格が邪魔して、スラム街を熟知している男を引き離すことが出来ない。
「クソが待て。ガキがぶち殺してやる!」
リックに手を伸ばた男に、私は咄嗟にリックの背中から手を放してナイフで切りつけていた。
ごろごろと地面を転がり態勢を整えると、手首を切られた男の向かいにリックがいた。
「アン!」
「大丈夫! リックは逃げて」
リックが男を避けて私を拾うのは難しい。リックは少し迷っていたが、私が笑って親指を立てて余裕を見せたら逃げてくれた。
男が怒りで顔をまっ赤にしている間に周囲を見渡し、逃げ道を探す。
通路の壁に小動物が通れる程度の穴を発見して駆け込み、這入りこんだ。
男が怒鳴り散らす唸り声が聞こえてきたが、無視して先に進むと雑草が生い茂った場所に出た。
帰り道を探して進むが、人が踏み入った形跡はなく、寂れた廃材が所々に打ち捨てられている。
生い茂った雑草をかき分けながら先に進むと、奇妙な建物と石像が目についた。
「……これは鳥居?」
木を組み合わせて立っている鳥居と崩れかけた屋根の中に石像が入っていた。
石像は何かの形を取っていたのだろうが、丸く崩れて石の塊にか見えなくなっていた。
懐かしさと郷愁で心が締め付けられるように痛い。
ついつい、蔦や雑草が繁っているのが可哀そうになって草を抜いて、蔦を引っこ抜いて心持ち綺麗にしてあげた。
こう言うのは、気持ちが大事って言うし。
数時間の作業で泥で汚れた手を叩き、少しは見られるようになった鳥居周辺に満足して帰ろうとした時、突然声を掛けられた。
「キキッ、待ちな。ちびっ子」
金切り声にふり返って石像を見ると、半透明な白い子猿が天狗面を被って浮いていた。