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君の姿は犬に似ている。

「私、入れ替わってる!?」


綺麗に縦にロールされた黄金の髪を振り乱し、そう言いながらベッドから飛び起きた令嬢ルミエールは、想い人であり婚約者のこの国の第一王子ユーリに駆け寄る際頭を打ち、今の今まで意識を無くしてしまっていた。

しかし、それでとんでもないことを思い出してしまった。


「何がだ。」


そう冷静にツッコミを入れる金髪碧眼見目麗しい見た目完璧王子様が第一王子のユーリ本人であり、天使のように緩くカールした前髪を掻き分けて額には痛々しい包帯が巻かれていた。

当然であるが、ルニエールとユーリは入れ替わってはいない。


「頭の硬さは私が負けてしまいましたね。」


ルニエールが同じように額に巻いた包帯を撫でてそう言うと、ユーリは眉間をグッと寄せてシワを作った。


「こっちが被害者だというのに何故見舞わねばならぬのだ。」


ユーリはイライラしているのか、辺りを気にせず貧乏ゆすりをしている。

普段は冷静なユーリが怒るのは間違いなくルニエールの不敬で無神経な言動のせいだろう。


「そりゃあ、婚約者だから?」


ルニエールは許容量の少ない頭の中で思いを巡らせて、答えを出す。

どうやら頭を打ったせいで敬語を司る脳細胞が死滅してしまったようだ。


「ならば質問を変えよう。何故お前のような者が婚約者なのだ!」


語尾を強く発して、威嚇するユーリにニエールは拗ねたように口を尖らせた。


「んなこと言われましても…婚約破棄すればいいんとちゃいます?」

「おま…」


大胆かつ愚かなルニエールの言葉にユーリは発する予定だった言葉たちを飲み込んでしまった。


「それならお互いにwin-winでしょう!」


ルニエールはいい考えと言わんばかりに笑顔になる。

その顔は城で飼っている何度躾けても言うことを聞かない犬に似ていた。


「本当に頭がおかしくなったんじゃないか?」


ルニエールはウザかった。ウザいほどユーリに好意を寄せて付きまとっていたというのに、今この時、婚約破棄を簡単に口にして、それを望んでいる。

しかも、ユーリの知っているルニエールは生粋のご令嬢であり、如何なる時も言葉遣いだけは丁寧だった。そう唯一の長所が無くなってしまったのである。


「頭がおかしくなっと言うか…思い出したと言うか。未来予知?みたいな?」


口をへの字にしてルミエールは頭を抱えて、今の状況に当てはまる言葉を探す。

しかし、打ち所が悪かったのか言葉が出てこない。

もしかしたら「入れ替わってる」じゃなく「生まれ変わってる」が正しかったのかもしれない。

そう、私、ルミエールは乙女ゲームの悪役令嬢に生まれ変わりました!

なんてユーリに言っても伝わるわけがないので、未来予知としてルミエールはユーリにこれから起こることを少しずつ進言した。


「つまり、15歳、学園に通うようになると私は運命的な出会いをして婚約破棄すると…」


ルミエールか言った言葉をユーリが端的にまとめて復唱する。


「…そうです。」


怒られた犬のようにルミエールはうつむき、上目遣いでユーリの様子を伺っている。


「何とも馬鹿らしいな。夢を見ていただけだろ。」


ユーリはため息をつくと椅子に深く腰掛けた。


「でも、私、国外追放も処刑も嫌ですし…なんたって、王子だって婚約破棄したがっているでしょう?」


ルミエールの言葉にユーリは同意するが、こちらが婚約破棄を言い渡されるなどプライドが邪魔していい気分はしない。

しかも、家同士の婚約をなかったことにできるかもわからない。


「百歩譲って、二人で婚約破棄に向けて頑張るとしよう。その後お前はどうする?」

「…お慕いする方と添えとうございます。」


ルミエールは急にいつもの喋り方に戻ると赤く染まった頰を隠すように手を添えた。


「それは私ではないのか?」


あれだけルミエールが押しかけていたのだから、ルミエールは絶対に自分に惚れているとユーリは思っていたし、それしか思い浮かばなかった。


「違います。私のお慕いしている方は…穏やかで包み込んでくれるような優しさを持っていて…愛する人と自分の主上が恋仲となっても自分の気持ちを押し隠してフォローしてあげるんです!自分の主上の元へと去っていく愛する人をただ切なく見送るだけ。そんなかませ犬で可哀想なあの方を包み込んであげたいっ…黒髪の落ちついていて大人びたあの方を子供のように…」

「って、それ、グレイルのことじゃねーか!」


並々ならぬ想いを込めたルミエールの熱弁に、ユーリは言葉使いを忘れて突っ込む。


「わかります?」


ルミエールは悪びれることなく、言っちゃったと言わんばかりにおどけてみせた。

そばに控えていたグレイルとルミエールの目が合うと「キャ」と小さな声を出し、ルミエールはさらに赤く頰を染める。


「よりにもよって私の側近と浮気か!」


興奮したのかユーリは立ち上がって、ルミエールを怒鳴りつけた。

そう、グレイルは幼い頃からユーリの側に付き従っている一番の側近であり、今もこの部屋で二人を笑顔で見守っている。


「浮気ではありません!純愛です!」

「頭打って腐れたか!」


脳内がお花畑のルミエールとプライドをズタズタにされたユーリが言い争っているのをグレイルは静かに聞いていたが、収拾がつかないようなので、静かに口を開いた。


「ルミエール様は意識をお戻しになられたばかりですし、お互いお怪我をされていますからこれくらいにしてはいかがでしょうか?また落ち着いて後日話し合われては?」


ルミエールとユーリはそれもそうかと一呼吸置いて、黙った。


「そうだな、病み上がりを問い詰めるのも気がひけるからな。今日はこれくらいにしよう。」

「そうですね。急な心変わりだと殿下も戸惑っているでしょうから、また後日と言うことで。」


二人は捨て台詞を吐いて別れた。


ユーリは私室に戻ると、ルミエールに重ねた犬と目があった。

走ってこちらに向かってくる犬に「ミレット」と名前を呼んでユーリがしゃがみこむ。

しかし、ミレットはユーリの横を通り過ぎ、グレイルの足元へと駆け寄った。

ミレットはグレイルの足元で千切れんばかりに尻尾を振り、構って欲しそうにピョンピョンと飛んで嬉しさを爆発させている。

「ふふふ…」と不敵な笑い声を出しながらユーリが立ち上がる。


「ミレット!お前もか!」


部屋の中でユーリの声が響いた。


「もう許さん!ただで婚約破棄して溜まるか!後悔させてやる!ルミエールも!そして、お前もだ!」


ユーリから指を指されたミレットはグレイルに満足げに抱かれて片耳を少しだけ動かした。

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