はなことば
やばいやばいやばい、心臓が飛び出しそうだ。
でも、ここで逃げるな松本想太。岸川桜さんに告白するんだろ。
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「入学式だるかったな」
「想太、寝たろ」
入学した日、式典を終えた僕は中学からの友人、拓生と駄弁っていた。
「うるさい、頭わしゃわしゃすんな!」
「いい位置にあるんだよなー」
「黙ってくれる!?」
その時、僕の目の前を一人の女の子が通った。
瞬間、ある一点を残して視界がぼやける。
その女の子を中心に、周りのものが全て背景になってしまった。そんな感覚だった。
「どうした想太?」
「いや、なんでも……ない」
「本当か?」
高校一年、春。
これが僕の初恋。
一目惚れだった。
――――――――――
接点なんてほとんどない僕らだったけれど、運命の日は訪れる。
「買い物は一人でも楽しいな」
その日桜は、一人で買い物に来ていた。
「でも、友達と来たかったな」
ん?あそこにいるのは、同じクラスの松本くんかな。話しに行ってみようかな?ビックリさせよ。
ドンッッ
すれ違った集団の、そのうちの一人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい」
「いってーな、本当に悪いと思ってんなら俺たちと付き合えよ」
「ごめんなさい」
「いいだろ、どうせ一人なんだろ?」
だ、誰か助けて!
「僕の彼女から離れてください」
「なんだ、おめェ」
「この人の……桜の彼氏です!」
「何言ってんだオイッ!」
男は、想太に向かって拳を振り上げる、
「いいんですか?そんなことして。みんなが見てますよ」
「……チッ、お前ら行くぞ」
「はぁ、怖かった」
「あ、ありがとうございました」
「いえ、大丈夫でしたか?」
「うん。おかげさまで」
「よかった。じゃあ僕はこれで。今度は気をつけて下さいね」
「はい!本当にありがとう」
想太くん、カッコよかったな。って、あれ?私どうしてこんなこと思ってるの!?
桜は、しばらく赤い顔で固まっていた。
――――――――――
昼、ここで食べるか。
「流石に寒くなってきたな」
なんせもう、九月だからな。
「想太くん!」
「うわぁ!」
「ビックリした?」
「き、岸川さん!? なんでここに?」
「花の水やり」
確か、環境委員会だっけ。
「もう少しでバラが咲きそうなの」
「バラ――って咲かせるのが難しいんだよね?……すごいなぁ」
「先生にも手伝ってもらってるんだけどね」
「それでも挑戦することがすごいよ。きれいに咲くといいね」
「ありがとう。咲いたら一番に報告するね」
うん。やっぱり、僕はこの人が好きだ。
そう思うと、口が勝手に動く。
「今日の放課後、一年五組の教室で待っていてください!」
「はい!」
やってしまったぁぁぁぁぁぁぁあ!!!
やばいやばいやばい、心臓が飛び出しそうだ。
ここで逃げるな僕!岸川さんに告白するんだろ。
ガラッ
僕は、教室のドアを開けた。中では既に彼女が待っている。
「岸川さん、僕はあなたのことがずっと前から好きでした。だから僕と……付き合ってくださいッッ」
「私は…………」
ふと窓の外に目をやる。庭の赤いバラが咲いていた。