入国
その先には、真っ白な道が続いている。
「入国審査、します」
レイがゲートの入口に立っている人と少し話した後、
「私の後に、通ってください」とゲートを通った。
ゲートは分厚いドブ色のシャボン玉のような膜でできていて、そこを通ると入国審査が済むらしい。
私は初めてみる異国に少し戸惑っていた。
「ルカさんは来たことあるんでしたっけ?」
「うん。大丈夫だよエル、この国のはぬるま湯をくぐるみたいな感じだよ」
そう言ってルカがゲートに触れた。
シャボン玉のような膜がルカの体を覆った後、すぐ元の膜に戻った。
「ねぇシン」
私の右隣にはシンがいて、呼びかけるといつものように目が合った。
「ん?」
「これって二人一緒に通れないのかなぁ」
「…通れたらいいのにな」
聞いた話だとゲートを通る時は空気に背中を押されて、胃が浮くような気持ち悪さがあるらしい。
手をのばして半透明のドブの壁に触れた。
「本当だ、あったかいんだ」
シンに背中を押してもらって、ゲートに入った。
目を閉じて、水の中にいるようなコポコポと音がして、薄暗いそこから出ると光を感じた。
目を開けるとそこは、とにかく真っ白で。
「おっと」
立ち止まっていた私にぶつかりそうになりながらシンが続いて来た。
目の前には、ずっとずっと来たかった、真っ白な北の国が広がっていた。
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「はっくしゅん」
「ははは、寒いですね」
レイが笑いながら真っ白な毛皮をエルに渡した。
「そうですね、今まで感じたことのない寒さです。」
吐く息が白く見えるような気がする。
「今日は比較的暖かい方ですが。慣れない方には厳しいでしょう。これを借りましたので、羽織ってください。」
真っ白な毛皮のマントのようなコートを羽織ると、この白い世界に馴染むような気がした。
フードを被り、手袋をはめ、真っ白な道を歩いていく。大きな道は雪が解ける仕組みになっているらしく、道から湯気が上がっていた。
「近くにモービルを待たせてあります。すぐ近くです。」
レイさんの後をついて歩いていく。この白い積もっているのは全部雪なのかな。
「ここが北の国か。」
シンの吐く息も白く見えるような気がする。
「ね。聞いてはいたけど、本当に真っ白だね。」
「エル」
呼ばれてシンの方を向くと、手袋を外したシンの手が目の下を擦った。
「凍るぞ」
「ああ、うん、ごめん」
涙も凍る国に住む人は、泣きたい時はどうしているんだろうか。