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華麗なる住人たち

放課後、部活動の掛け声が聞こえる中、

正門の脇で1人の少女が囲まれていた。


色素の薄い瞳と短めに切りそろえられた髪は日差しを柔らかに押し返し、

どこか困った表情で笑う。



「あのぅ・・・、そろそろ夕飯の準備があるので帰りたいんですけど・・・。」


「だからっ!あなたが真山君に今後近づかないって言えばいいのよ!」

「そうよ!それから柿崎会長や三浦君にもね!」

「成田先輩に色目使うのもやめなさいよね!」


「はぁ・・・そう言われましても・・・」



――家が同じだしなぁ・・・



「麗鳴館れいめいかん」。別名、イケメンの館。

なぜか見目麗しい人ばかりが集まるため、ご近所ではそんな風に噂される下宿屋だ。


少女は、その下宿を営む相田家の次女・相田花音。高校2年。



元気が取り柄の花音ではあるが、学園でも人気のある男女に囲まれて話すこともあり、

妬まれることもしばしば。


というか、今がその状況。



花音がなんと返せばいいか考えていると、後ろから声がかかった。



「よっ、相田!なにしてんの?先に教室出たのに」



にこにこと肩に手を置いて話しかけてきたのは、花音のクラスメイトで下宿人の1人・真山爽そう。

誰にでも訳隔てなく優しく爽やかで、運動もできる、人気者だ。



「あまり穏やかな空気には感じられないな。」


冷ややかな声でそう繋いだのは柿崎奏かなで。

高校2年生、クールな生徒会長で、密かにファンクラブがあったりする。

下宿当初は出待ちがいたりして、かなり大変だった。



「あれ~カノンせんぱ~い!まだここにいたんですか??」


「結局学校まで戻ってきちゃったね。」


校門の外から手を振ってきた2人は――

1つ下の後輩、三浦 裕人ひろと。

懐っこさから年上のお姉さま方に熱狂的な人気がある。



そしてどことなくチャラい空気を纏うのは、高校3年、成田 克哉かつや。

常に複数の女性が回りにいる色気たっぷりのフェミニスト。

その瞳に見つめられた女性は誰しも虜になってしまうと他校まで噂になっている。



「というか、何をしているのかしら?貴方たち。」


2人のさらに後ろからゆっくりあらわれたのは、下宿人でクラスメイトの鳳麗華。


街を歩けばスカウトに当たる、容姿端麗の美少女でかなりのお金持ちでお嬢様だが、

ある理由で下宿先に身を寄せている。


そんな美少女に咎められ、肩を竦める3人の少女。

「わ、私達はなにも・・・」


「下宿人のお前ら男子に近づくなと警告していたぞ」


植え込みの影から颯爽と現れたのは、女子剣道部期待のエース・篠崎凛。

名前のとおり凛とした雰囲気で、身を包む胴着とポニーテールでまとめられた濡羽色のつややかな長い髪がさらにそれを盛り立てていた。


ただ、ドジ体質なのか、植え込みや排水溝に突っ込んだりする姿がよく見られ、

そんなところもギャップ萌えということなのか、

麗香と2人、学園のマドンナ的存在でもある。



「へぇ・・・カワイイ女の子に言い寄られるのは好きだけど、

お世話になってる子に寄ってたかられるのはちょっとね。」


「ていうか、そういうことする人って怖くて逆にそっちに近づけないですよね~」


凛の言葉を受けて校門の外から2人がやいのやいの言うと、

「とりあえず複数で1人を囲むこと自体どうかと思うが。」


「スポーツマンシップにのっとって1対1ってことですね!」


柿崎の冷たい指摘に、最後の爽の一言だけちょっとずれているが、

各々、3人の少女へ怒りが沸いてきているようだ。


「言いたいことがあるなら私達も一緒に聞きますけれど?」


そう言ってシメに麗華が睨みをきかせると、男女のイケメン複数に囲まれて緊張も頂点に達したらしく、

3人の少女は真っ青になった。



そんな重たく冷え切った空気の中、そろそろと挙手をする者が1人。



「あのぉ~・・・そろそろタイムセールに間に合わなくなっちゃうので帰りたいんですが・・・」



言いがかりをつけていた少女たちは花音のその間の抜けたセリフで、

口々に「しつれいしましたぁ!」と叫んで散っていった。



「大丈夫?」

爽が花音を覗き込むと、ぶんぶんと頭を上下にふる。


「うん。ありがとう。でも・・・」


真剣な顔になった花音に周囲の人間は何かされたのかと固まる。



「もう・・・お魚がないかもしれない」



一気に肩を落としずっこけた周囲には気付かず、

花音が心配するのは、今晩のおかずになるはずのタイムセールのことだけだった。



「あ、せんぱい。それならもう買って来ました!」


「そうそう、タイミング的にスーパーで買い出ししてれば

貴方と一緒になると思ってたけど全然来ないから途中で会えるかと思って迎えに来ちゃったのよ。」



「わ、そうだったんだ!ありがとうございます!!

やった~これで今日は焼き魚♪七輪で焼くんですよ!絶品ですよ!さ、早く帰りましょう!」



花音を見ていると、あんなことがあっても今日も平和だと思えてくるから不思議だ。

そんなことを胸に秘めつつ、歩き出す一行が向かうのはもちろんそれぞれ大切な居場所となっている

「麗鳴館」だ。

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