2話 初めての友達
帝聖歴二千十五年、熱月十日、快晴
シロン、猫型モンスターネルルと遭遇、友達になる。
リリカ、誤ってネルルで実験、シロン激怒する。
シロンは家を飛び出した。
「ぷぎゃー」
「みゃー」
(お、おう、こいつは猫か?……顔しかないけど、いや俺も先月まで似たようなもんだったけどさ)
シロンの目の前には、猫の生首をデフォルメしクッションサイズにしたようなモンスターが居た。
(ネルルっていうのかこいつ――――モンスター同士だけど意思の疎通ができないんだけど、無理なのかな?)
シロンはリリカのモンスター図鑑を持ち出して、猫型モンスターをネルルと知る。
シロンは少し近づいてみる。
ネルルも真似して近づいてきた、ネルルはシロンに擦り寄った!
「ぷぎゃー」
(お、こいつ中々可愛いやつだな、それになんかちょっと甘いいい匂いがする)
「みゃー」
ネルルはシロンの体に自分を擦りつけて匂いをつけている――――これはネルル特有の求愛行為なのだが、図鑑にはそこまで詳しく載っていないし、シロンもそんなこととは全く気付かなかった。
最もこれは子供のうちに、将来の相手を決め、先に唾をつけておく行為なのだが。
ネルルは様々なモンスターと交配し進化してきた種族だ、このネルルはスライム系統のモンスターの系譜で、肉体は頭のみという形状をしている、一般的なネルルだ。
(もしかしたらこいつ、腹が減ってるんじゃね?よし、確かキッチンにミルクがあったはずだな、あれを持ってこよう)
シロンはネルルにここにいるようにという、ニュアンスの鳴き声を発して、キッチンへ向かう、ネルルは素直に従っている、これはネルルが匂いをつけることによって、起こる現象で普段ならお互い意思の疎通は不可能なのだが、将来の相手と決め、匂いをつけた相手となら意思の疎通が可能になる、ネルルの特性だ。
しかし、これが不幸を招いた、ネルルは素直に従っていたため、リリカの存在に気付かなかった。
「よし、捕まえた!うふふ、ラッキーいい材料ゲット~」
ネルルを後ろから抱き抱え、小躍りするリリカ。
ネルルはただ、待てというその命令に従ったまま微動だにしない。
「さーて、シロンのご飯にしなきゃね~」
リリカはそのまま研究室に向かっていった。
シロンが部屋に戻ってきた時には、ネルルは居なかった。
(あれ?逃げちゃったかな、残念だな、せっかくいい友達になれるかと思ったのに――――)
ドンッ!
(リリカの研究室の方か、また何かやらかしたか?仕方ない主様だ、行ってやるか)
シロンはリリカの研究室へと向かう、研究室の扉は開いていた、中からもくもくと、黒煙が吐き出されている。
(なんか焦げ臭いなー)
視界が悪くリリカを探すのに嗅覚を使おうとしたシロンは鼻を塞ぐ、どうやら嗅覚でもダメらしい。
当たって砕けろだ、とシロンは闇雲に煙の中へ飛び込んだ。
べちゃっ
(なんか踏んだぞ?ん――――これは……?)
黒焦げで、べちゃべちゃした水たまりのような物がそこにはあった。
「んー何がいけなかったんだろう?あ、シロン、ごめんねまた失敗しちゃった、その水たまりっぽいのさ、処分してくれたりしないかな?」
(またって――――はぁ、仕方ない、片付けるか……ってかこれ舐めろっていうの?)
シロンは黒い水たまりに顔を近づけ、匂いを嗅ぐ――――焦げ臭い……それと、どこかで嗅いだような匂いがする。
黒煙がだんだん晴れてきた。
シロンは研究室を見渡した――――解体テーブル横の壁のフックにネルルの毛皮が掛けてあった。
(え?――――アレってあいつ……の?)
「さっき部屋の中にネルルってモンスターが迷い込んでたから捕まえて実験に使ったんだけどね、なんか活きがあまり良くなくて、なんかじっとしててさーなんか待ってるような感じだったんだけどさ、不思議なこともあるよね~」
シロンの頭の中は真っ白になった――――ネルル?捕まえた?実験?
その単語をなんとか耳にしたシロンは思わずリリカの顔面に頭突きをして、研究所を飛び出していった、これもネルルの匂いを付けられた効果である。
リリカは顔面にモロに食らったため、鼻血を垂らし気絶した。
シロンは走り続けた、もう、リリカの元に戻るつもりはないかのように。