1話 一ヶ月過ごしてみた結果。
帝聖歴二千十五年、陽月三十日、快晴
シロンはこの世界についての本を読んでいた。
リリカは実験に失敗しその残骸処理のためシロンの餌に混入した。
シロンは進化を果たした。
(異世界転生ってやつか、それでここでは俺は新種のモンスター扱いでリリカの研究材料兼使い魔にされたって訳か)
シロンは読書をしていた、念動魔法を用いて器用にページをめくっている、リリカに拾われ約一ヶ月が経過した、最初のうちは理解できなかった魔法という概念や、この世界の文字ではあったが。
拾われて数日後に、リリカによって使い魔契約をなされて、様々な情報を得た、リリカの生い立ち、研究している分野の知識から彼女のスリーサイズなどなど。
それによってシロンは幼体ながら、実に快適な暮らしをしている。
「シローン、ちょっときてー」
(リリカ、また何かやったな……ちょっと焦げ臭いし)
主従関係は良好と言えるだろう、リリカは研究材料ではあるがシロンのことを大切にしているしシロンもリリカが主であることは満更でもないらしい。
ぴょんぴょんと床を跳ねながら研究室の方へ向かうシロン。
研究室に入ると、白衣を煤けさせたリリカが待っていた、片手にはシロンの餌用の器を持っている。
「はい、シロンこれちょっとお昼には早いけど食べて?」
シロンの目の前に置かれる器にはいつもの炊きたての白米、この世界の主食は米である、それにところどころ黒い何かが混ざっている。
(やっぱり何か失敗作を混ぜたな……今月、四度目なんだけど、これ食べて大丈夫かな?)
「む、大丈夫だよ、食べられないものは入れないから、安心して、全部食べちゃってね?」
言葉は相変わず喋れはしないシロンだが、簡単な意思の疎通程度は契約の効果で行える。
何を伝えても無駄だと感じたシロンは「にゃー」と答えて諦めて食べ始めることにした。
苦い――――ちょっと甘い、いや限りなく辛いっ?
不思議な味に仕上がっていた――――
体が熱い――――
シロンはその場で悶え始めた、それを見たリリカは慌てふためき、オロオロしている。
そしてシロンの体が突如輝き光に包まれる。リリカはあまりの眩しさに目を閉じた。
変化はすぐに収まった。そしてシロンはシロマルからシロオンに進化した!
全体的な丸みはあまり変わらないが獣耳、短足ながら前足、後足があり、よく動く短い尻尾、そして何よりも、全身を覆う白いもふもふの毛並みがそこにはあった。
「え、えぇぇ!?」
リリカは驚きのあまり腰を抜かしてその場に倒れてしまった。
「ぷぎゃ?」
(あ、シロオンは、ぷぎゃって鳴くのか)
声を出してから変化に気づく。
「し、シロンなの?」
さほど変化はないのだが、突然のことだったためか理解が追いつかないリリカ。
そんなリリカに対して、自分がシロンである証としてシロンはこの一ヶ月で覚えた芸を見せる。
「ぷっぎゃー!」
逆さ跳ね飛び――――!
頭……といってもほぼ体全てが頭に等しいシロンだが上下逆さになってぴょんぴょんするという芸を一週間前からやっている、ちなみにこれを最初見たリリカはドン引きしていた。
「あー、シロンなのね」
どうやらリリカは納得したようだ、呆れ半分ではあるが。
そしてシロンはこの日一日を逆さ跳ね飛びで過ごし続けましたとさ。