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微笑みながら、しかし彼の中にある徹底的に足りないものを見出したシンヤは苦汁を口に含んだように嫌な顔をします。
「お前は俺の親友を殺した。俺はお前を絶対に許さない」
だけど、クルミちゃんの為に殺せない、か。
シンヤの言葉の奥を、その殺意と混雑する微妙な心情にココアは静かに首を縦に振ります。
「安心してよ。君が僕を殺しかかっても、僕は逃げ出したりしない。事故に見せかけるならその協力だってする」
全てを悟ったように、しかし心に何もないそんな目。
「君の殺意に抵抗する理由が、もう僕にはないからね」
それは、ただ鏡のように。
目の前で怒りを露わにする青年を映していました。
シンヤはそのすべてを受け入れようと微笑みさえ浮かべる彼が心底嫌で仕方がありませんでした。
「てめー、俺がクルミちゃんに気を使って何もできないとかこいつ頭悪いとか余裕ぶっこいてたら本当に痛い目見るからな!」
「僕は、微塵もそんなことは考えてなかったんだけど、君はぽっとそんな被害妄想を思いつくほど自分の頭の悪さにコンプレックスがあるんだね」
「あ゛あ゛っ?」
その時、施設のどこかでガラスが盛大に割れる音がしました。
それは少し遠いのですが、規模は大きそうな音です。
それまで不穏な空気で見つめ合っていた二人の眉がピクリと動きます。
「……この距離だと事務所?」
「馬鹿な。ガラスは魔法仕掛けで通常のレベルの魔法使いじゃ割ることができないはずだろ」
普通なら。
通常なら。
でも、今通常ではない珍客がこの施設にはいる。
「……シンヤ、君はピヨーネをどこに預けてきたの?」
ココアはシンヤの顔の色が青ざめていくのを見ました。
「シンヤ?」
そして、猛ダッシュで廊下を走っていきます。
「ちょっ」
ココアは追います。
「事務所なの!?事務所でしょ!!せめて答えろ愚か者!!」
「てめー、やっぱり心の中で俺を馬鹿にしてるだろ!!」
先を走るシンヤはやはり事務所に向かって全力疾走でした。