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保護施設の有様はひどいものでした。
事情があって家に帰れない子供たちを保護する施設。
普段子供向けに可愛らしくまとめられた部屋。
少なくともピヨーネを手渡したとき、そんな感じだった。
カーテンは破れ、棚は倒れ、ぬいぐるみは胴で真っ二つ。
白い床には血が滴り、明らかに事件現場だ。
妙に子供っぽいテイストが猟奇さを際立たせる。
保護施設で保護されていた子供たちは逃げまどい、職員は包帯を巻き。
施設長は髪を振り乱しヒステリックに叫び、どこかに電話をずっとかけていました。
もう、施設に入らせていただきますというココアの声さえ届かないくらい。
「うわあ……」
ピヨーネを見つけた時も、半べそ書いている職員のおじさんに噛みついている真っ最中。
ココアを見つけてやっとおじさんの腕から口を話します。
『あ、ココア』
上げた顔は血みどろです。
『……君は噛みついてないと前歯が伸びちゃうげっ歯類か何かなの?』
『ここにいたくないの。図書館に帰りたい』
図書館も君の家でも何でもないのだけどね。
あまりの惨状に回答に躊躇していると彼女はおじさんの首を掴みます。
『早くしないと前歯が伸びちゃう』
と綺麗で丈夫そうな歯をおじさんの首横で見せます。
「やめて―!!」
その叫びを聞きつけて、どたどたと足音が近づきココアの背後に回へ。
「あんた公務員!?慰謝料を渡しなさい!!」
包丁とコード千切れた受話器を手にした初老の女が吠えます。
人を超越した表情の女に、人質に取られたおじさんは白目をむいて倒れ。
新たに出てきた敵に、果敢にもピヨーネは『ショワアアアア』と口を半開きで威嚇します。
それらに挟まれたココアは周りを必死で見渡しながら、この仕事辞めたいなあと泣きたくなりました。