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「僕はこの子を病院に連れて行きたいんだ。感染者を増やしたくはない」
真顔で分からない言葉を喋るココアの横顔を、ピヨーネはじっと見つめます。
男は舌打ちし、がまぐちの口を閉じると。
背を向ける瞬間、ココアの顔を拳で殴り飛ばします。
『ココア!』
「……へへへっ」
右目の部分を押さえ、地面に悶絶するココアの姿を見下ろし、彼らはご機嫌に人ごみの中へ消えていきます。
『ちょっと、大丈夫!?』
勢いよく大通りにはみ出したココアの体に、ピヨーネは駆け寄ります。
人ごみがココアの周りを避けるように、しかし必要以上に近づかないように大きな輪になり眺めていました。
『こういう時の為に、財布二個持っているんだよね』
ココアは地面に倒れ、目を手で覆ったまま指を二本立てて不敵に笑います。
『策士だと思わない?』
ピヨーネは首を振ります。
『確実に頭が悪いと思うわ』
残念そうに、同情するように。
しかし、ココアが元気そうで少し安心したピヨーネの顔の後ろで。
光り輝く頭が、ココアの左目には映りました。
その手には子供の大きさほどある大きな斧。
それを振り上げ迫っている地獄絵でした。