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『ちょっと何?あの体育会系王子様!』
明らかにピヨーネの気分が上がります。
身長が高く、まるでアスリートのような美しい筋肉のついた体型。
黒色の髪がさらりと顔を包む顔立ちは何かと戦っているような芯の強さがあり、王子様と勘違いされてもおかしくない気品がありました。
ただ立っているだけでメスが寄ってきそうな美貌。
本当にそんな人いるんだ、ピヨーネは好奇心が止まりません。
しかし、それに比べてココアは温度差がありました。
「君は、公然でなんで露出しているの?」
「お前こそ、何故幼女誘拐真っ最中なんだよ」
『ちょっと、国家公務員!あたしに紹介してよ。このお兄さん!!』
ピヨーネにシャツ掴まれてガクガク揺らされるココアはあ~とめんどくさそうに呻きました。
『この人は、シンヤ・ディープナイト。この図書館で事務をしているんだ』
「なんだ?良くわからない言葉だな。今、俺の名前言ったか?」
『事務がなんで裸になる必要はあるの?』
『この人の趣味だよ。危ない人だからあまり近づかないで』
「おい、何ガキに吹き込んでるんだよ!俺を見る目の色があきらかに変わったぞ!」
明るく騒ぐ3人に、道行く利用者が振り返り笑って通り過ぎていきます。
「ワンコが帰ってきて庭の手入れの手伝いをしてるんだよ。奴のせいで水が噴射して脱いだだけだ」
「へー。帰ってきてたんだ」
「お前も、退院したのか」
「おかげさまで、大事には至らなかったからね」
ピヨーネはココア後ろでシンヤの表情の変化を見逃しませんでした。
不自然なほど明るい表情の中から生まれた、ほんの一瞬の。
違和感。
無理やり明るい会話をしているような、空気。
その空気の不自然さに、ピヨーネは息を飲みます。
一方、ココアはハンコを押したような満点の笑顔で彼との会話に応じます。
この人たち、本当に仲いいのかな?
「クルミちゃんがお前の事を心配してた。折角だし顔出してやれ」
「そうするよ。君も力仕事頑張ってね」
「たく、本当にだりーよ」
顔を背け明るい声。
後ろ手で手を振り、それに笑顔で答えるココアの姿を見て。
ピヨーネはその顔の下の表情を読み取ろうとしましたが、それはできませんでした。