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館長室を出たピヨーネは開口一番こう言いました。
『あたし、あのおばさん嫌い』
「おばっ……」
思わずオウム返ししそうになるのをココアは水際で止めます。
慌てて深く閉まった館長室の大きな扉を振り向きます。
『綺麗で、スタイル良くて、服のセンスだって奇抜だけど悪くないわ。だけど、怖い。ずっと笑ってたけどあの人怖い』
眉に力を入れ首を振りさらに拒絶します。
『食べられそう』
いい勘だなあと、密かにココアは思いました。
それとも弱者故の動物的勘なのか。
『……まあ……、あの人は得体のしれないところはあるよね。たしかにね』
お前が言うなという言葉を飲み込み、別の言葉を探します。
話題を変えた方が得策かな。
『ともあれ、うちの国にいる間の君の身分証明書を作るから、一度受付に行こうか』
『身分証明書?』
『だって、身分証明書がないとこの国の本一つ読むことができないからね』
当然のように語るココアを、ピヨーネは小ばかにしたように鼻で笑います。
『何?』
『ライブラ国の物事の尺度が、あたしには一生理解できそうにないわ』