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シュガーポットに、秘密を詰めて

作者: 日向 葵

ちゃぽん、ちゃぽん。


愛嬌のある音を立て、角砂糖は水面に吸い込まれるようにして消えた。

銀の細いティースプーンで螺旋を描けば、小さなキューブは花開くように形を崩し紅茶に甘い波紋を広げる。


紅茶は不思議な色をしている。

名前の通り紅く見えるし、英語のように黒くも見える。

少なくとも、この透明な色彩を的確に表現する形容詞を私は知らない。


かちゃり、とスプーンをティーソーサに置いてカップを口に運ぶ。

白磁の入れ物は触れればとろけるように滑らかで、取っ手の頂点にはピンクの薔薇が一輪咲いていた。

唇と縁を重ね合わせ容器を傾ければ飲み易い温度の紅茶が淀みなく流れこむ。

同時に私を包むように優しい香りが広がる。まだ好みの甘さじゃあないとティーソーサにカップを戻すと磁器同士ぶつかる硬質な、それでもってどこか子どもじみたかわいげある音楽を奏でた。


甘味料をもっと足すべくテーブルの上のシュガーポットに手を伸ばす。

ポットは卓上の真ん中、こぢんまりと出番を待っていた。隣には空っぽのジャムの瓶に活けたすみれが俯き加減に三輪ひっそり(わら)う。

濃い紫色はテーブルクロスも食器も調味料も純白なのでよく目立った。

白は甘い色だと思う。砂糖はもちろん、ミルクにバニラにクリーム。ふわふわと軽く、蕩ける一色。

そんな眺めの中で深い深い憂鬱のように重い花の色は宝石の輝きに似た存在感を放ち私の視線を奪った。花言葉を思い出しながら暫く見つめる。今日のティータイムにこの花を選んだのは偶然なんかじゃない。


忘れかけていた砂糖を摘まみ、小さな海に落とす。ひぃ、ふぅ、みぃ、よ。これで溺死した角砂糖の数は計六つになった。

啜れば当然甘く、くどい程だ。舌が麻痺しそう、だなんて。とっくの昔に、恋の一文字に雁字搦めに拘束され全身に沁み渡った甘美な毒に犯されまともな身じゃないのに。今更真っ白な結晶六粒が与える甘さなんてたかが知れている。

ふとシュガーポットに目をやれば中身の半分が空白だった。下半分は雪のように真っさらなのに、上半分は透明で向こう側が意図せずとも覗ける。満たされない事実が自分と重なりどこか落ち着かなくて、隙間を埋めようと硝子の蓋を外した。


詰めたのはすみれの花。

控えめに花をつけるすみれは甘味を備えた白雪の上にそっと音もなく落とされた。再び元通りに密封すれば、生まれ変わった光景に満足し自然溜息が洩れる。


すみれの花の砂糖漬けのようになれれば良いのに。


すみれを私に見立てたとして。砂糖に(うず)もれるこの花のように、甘い恋に囲まれてみたい。

現状とても無理そうだけど。甘美と甘味は違うのだ。所詮は片恋。実ることはまずないだろう。

紅茶を一気に飲み干せば、求めるとは別の甘さが口腔に満ちる。

テーブルの上〝秘蜜〟はそのままに、私は席を立った。

心情描写よりもお茶会の描写に心血注いだ大変独り善がりで自己満足なブツ。

すみれの花言葉は「小さな恋」です。


良ければ感想・評価お願いします。

今後の文芸部活動の参考にさせていただきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] おいしそうですね。 こういうの好きです。詩美。
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