第三十一話 三者三様
いつもの如く、図書館の近くの公園でお昼ご飯を食べていると、クロードさんがやって来ました。
クディル兄様に負け、アラン様に叱られた日から、感情が素直に表情に出るようになった気がします。前はもう少し澄ました表情をしてたのになぁ。
「あの……、どうかしたかな?」
「えっ?」
「いや、何だか見られてたみたいだから……」
「うぇっ!?」
おおう、気付かれてた。
「いえ、あの……、何だか表情が前より豊かになった……ような?」
オブラードに包んで伝えてみたところ、クロードさんは困った様に、また、恥ずかしそうに眉を下げて笑った。
「ああ、うん。その……、散々格好悪い所を見せてしまったから、今更澄まして格好つけるのも恥ずかしくて……」
そう言ったクロードさんは、高位貴族の男性ではなく、まして英雄でもなく、ただの同年代の少年だった。
「あらまぁ……」
この日初めて、クロードさんが私と対等な人間になった気がした。
* *
皆様こんにちは。お嬢様に超叱られたゼクス・シュッツです。
何だか知りませんが、メリーさんとクロード様の間にフラグが立っていたのを、折りかけてしまったようです。わーお、あの二人にそんな展開が? 想像もつきませんでした。
「クディルさんが居る限り無理だと思ってたんですが、分からないものですよね」
「そうだな。……で、その書類の山は何だ?」
先輩の視線の先には、三つほどの書類の山が。お嬢様から、お仕置きに書類の山をプレゼントされてしまいました。
「おかげで、ますますお嬢様に会えずにいます。しかも、ここぞとばかりに親父様が書類を追加していくんです……」
「おお……。まあ、頑張れ……」
そう言って引きつった笑顔で先輩が励ましの言葉をかけてくれました。……言葉よりも行動の方が価値があると思うのだけれど、どうでしょう?
「手伝わんぞ」
「ちっ」
舌打ちする俺に、先輩が呆れた視線をよこしています。
「大体、お前、クロード様の恋愛相談役だろ? そのお前が、フラグを折ってどうするんだ」
「おっしゃる通りで……」
ぐぅの音も出ません。
しかし、正直、メリーさんは囲い込まれると反発したくなるタイプだと思うんですよね。なので、あまり積極的に手を貸すとクディルさんが出てきて、壁どころか積極的に拳を振るう事になりそうなので、静観していたんですが、ちょっと油断しすぎました。反省してます。
「二人がただの庶民で、クロード様が英雄でもなければ、普通にお付き合いが始まってた可能性が高いんですよねぇ……」
ぶっちゃけ、貴族の鎧と、英雄の仮面を剥がせば、出て来るのは青春真っ盛りな思春期の男なんですよね。ただの男なら、メリーさんも自分に害が無ければ試しに付き合ってみるか、とでも思ったかもしれません。
「しかし、恵まれすぎて恋愛で不自由しているって、笑っちゃいますよね」
「お前は悪魔か」
イケメン、ざまぁ、と笑う俺を、先輩がドン引きしながら見ていました。
* *
クディル・ラニードは困惑していた。
己の婚約者であるローザ・チェザレのご両親に挨拶に行き、円満にそれを終えた帰り道。異国の地であるこの国に、自分を知る者は居ない筈なのに、通行人がはっとしたような顔をしてこちらを振り返るのだ。
最初はローザを見ているのかと思ったのだが、どうにもその視線は自分に向かっている。これは、どういう事なのか……。
ローザ・チェザレは察していた。
ローザの国は魔術大国で、魔術師が多く居る。そして、戦士の数は他国より少ない。つまり、筋肉質な男が少ない。
居ないわけではないのだが、バルード王国よりは確実に少ないし、筋肉質な男も他国より細身だ。
しかし、筋肉はそこに在るのである。
「何なんだろうな?」
「何なのかしらねー?」
首を傾げる未来の夫に、ローザは美しく微笑んで口を噤んだ。
その日、とある魔術大国にて、筋肉が目覚めた。
その日より、じわじわと筋肉人口が上がり、魔術師と戦士の数の逆転が起きるのは、割と遠くない未来の話である
周囲は順調にれんあいするれんあい小説。
そして、きんにくが蔓延るれんあい小説。
れんあい小説とは何か。
とりあえず、だれかがれんあいしてればいいのでは?(状態異常:混乱)