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木陰のメリー  作者: 悠十
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第二十七話 実家

 ある朝の事である。

 王城にて、今をときめく英雄、クロード・ヴィラックは、その張り紙を見付けた。


『俺達のアニキの軌跡を辿るツアー』


 クロードは考えた。

 つまり、これはメリーの兄であるクディルの軌跡を辿るツアーであり、そのツアーは必ずメリーにも関わりのある地、ラニード男爵領へも行くのである。

 クロードは兄のアランにラニード領へ赴き、未来の義父に挨拶する事を禁じられている。しかし、旅行へ――ツアーへの参加は禁止されていなかった。


 つまり、旅先で義父上に会うのは不可抗力。


 とんだ屁理屈をこねながら、クロードは一つ頷き、ツアーの参加を申し込みに歩き出した。




*  *




 柔らかな日差しが窓から差し込み、爽やかな風がふわりと室内を撫でる。

 穏やかな空気の中、ラニード家の男爵夫妻――私の父と母は、クディル兄様の婚約者、ローザ様と初めて顔を合わせた。

 緊張気味な挨拶の後、旅装を解き、まず両親とクディル兄様とローザ様達だけでお話する事となり、おまけの私達姉弟は部屋で待機となった。

その後、日が暮れて、両親に呼ばれてディナーとなった。

 

「いやぁ、しかし、便利な時代になったね。私が若い頃は王都から領地までは馬車で一週間はかかったものだよ」


 ほわほわと微笑むのは、茶髪に青い瞳を持つクディル兄様に似た容姿の父である。私とクディル兄様は、平凡な顔立ちの父似だ。


「そうねぇ。転移魔法陣が各地方に設置されるなんて、私達の若い頃からは考えられないわ。確か、古代魔法で、ようやく解析されたのが二十年前……だったかしら?」


 小首を傾げるのは、金髪に緑の瞳を持つ母だ。アドルフ兄様と三つ子は美女の母似である。とても羨ましい。


「ええ、その頃ですね。私の生国の王宮魔術師が解析して、各国に提供しました」

「ありがたいわぁ」

「なんて懐の深い国だろうと世界中の人間が思った筈だよ」


 にこにことローザ様と両親が和やかに会話し、その様子にクディル兄様が嬉し気に微笑みます。

 私とマルコとフランツは、邪魔にならないようにおとなしく話を聞いています。

しかし、マルコとフランツは本当に話に聞いてた通り外見に差が出てきている。前はそっくりだったのに。


「マルコとフランツは大きくなったね」

「男の子って、ちょっと見ないうちにすぐ大きくなっちゃうわねぇ」


 二人の様子に気を取られていたら、いつの間にか話題が私達の事に移っていた。


「メリーも大きくなって……。ほんとに苦労を掛けてしまって……」

「メリー、ご飯はちゃんと食べてる? お金は足りてるかしら?」


 そして、何故か私を見たら涙目になった。


「メリーは本当に大人しかったから、つい安心してしまって……。あまり目をかけてやれなくて……」

「ごめんなさいねぇ……」

「え。いや、あの、別に大丈夫だけど?」


 確かに、そんなに構ってもらえてなかったかもしれないけど、三つ子の子育てがどれだけ大変だったかは分かってるから、別に気にしなくても良いんだけどなぁ。

 

「すまない、姉上。僕が未熟だったばっかりに……」


 誰だお前。

 いや、マルコですね。え、本当にマルコ? 何か、爽やか美少年の外見で、申し訳なさそうに謝られたんだけど!?


「メリー姉、ファイトー」


 あ。フランツは変わらない。何だろう、この謎の安心感は。

 

「とにかく、大丈夫だから! えっと、ところで最近は領内の様子はどうなの?」


 強引に話題を変えると、じめじめしそうだった父が、ほわほわと微笑んだ。


「それがねぇ、最近うちでツアーをしてくれてるおかげで領内が潤っててね」


 ミシッ、という音がして、音の発生源に視線を向けてみれば、無表情になったクディル兄様が!

 え、何? どうしたの?


「ツアー客の皆さんは体格が良いから喧嘩とかになったらどうしようかと思ったんだけど、マナーも良いし、逆にマナーのなって無い人を鎮圧してくれて助かっちゃったよ」


 察した。

 そっか……。とうとう、ツアーが組まれてしまったんですね、クディル兄様……。

 治安は良くなっても、クディル兄様の心の平穏は破られてしまったのですね……。


「父上。こういった大事な事を手紙に書くなら、最低でも五通は出して下さい」


 眉間に皺を寄せて苦言を呈すクディル兄様に、父様が申し訳なさそうに眉尻を下げ、言います。


「すまない、クディル。五通出したんだ……。けど、全部届かなかった……」

「……今度から六通出して下さい」


 不運此処に極まれり。

 ああ、うん……。クディル兄様、やっぱり父様似なんですね。いろんな意味で……。



そうなんだよ。

これ、実は恋愛小説だったんだよ(筋肉に押しつぶされた残骸を見ながら)

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