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木陰のメリー  作者: 悠十
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第二十二話 仕事

 コンニチハ! アランお兄さんだヨ! クディル殿が入院しちゃって、さあ大変! 何が大変かって? 筋肉共とか、魔族とか、筋肉共とか、筋肉共とか、不正官僚とか、うん、主に筋肉共かな! まあ、色々と阿鼻叫喚だったわけだよ。それで、筋肉共が「アニキの負担を減らすんだ!」を合言葉に色々頑張った結果、どうにか落ち着いたんだけどね?

それは良いんだけど、ひとこと言わせてほしい。


「何故、普段からそれをしないのか……」


 やれるなら、やれよ! って思っちゃうよね!


「クソが……」

「あ、兄上?」


 ああ、いけない。そういえば、クロードが来てたんだった。


「ああ、いや、すまん。こっちの事だ。で? 魔族の姫のリリム姫の事だったな」

「はい。何でも、連れて来ていた人員が一人を残して全て退職してしまったらしく、新たな人員を国から迎えるから、許可が欲しいそうで……」

「あ~……、アレか……」


 その退職した人員、全てクディル殿の忠実な僕ですね、分かります。


「アレ…とは……、兄上は何かご存じなのですか? リリム姫は何故彼等が辞めてしまったのか分からず、随分荒れていて面倒――いえ、迷惑していて……」

「お前は何のために言い直したんだ? 言い直した内容が酷くなってるぞ?」


 憂い顔で暴言を吐く弟に、呆れながらも教えてやる。


「リリム姫が連れてきた魔族の筋肉共は、皆、クディル殿の忠実な僕となった。よって、今回クディル殿の役に立つため、我が国に再就職した」

「……流石は義兄上」


 どさくさに紛れて義兄呼びするクロードを生暖かい目で見ながら、あの日の混乱を思い出す。

 あの日、クディル殿が倒れたと知って、彼等は以前から用意していた退職願をリリム姫に叩きつけるように提出し、その足で我が国に再就職しやがったのだ。

 つい最近まで争っていた国の人員であり、姫付きであった故に色々問題があり、本来その背後関係だの何だのを警戒しなくてはならない。しかし、彼等の就職に関し担当したのがとある筋肉野郎だったため、いつの間にか意気投合し、『アニキを称え、筋肉を鍛える会』とかいう恐ろしい会合に飲み込みやがったのである。以降、彼等は筋肉を鍛えながらクディル殿の為に働いている。


「正直、クディル殿がこの国の陰の支配者だよなぁ……」


 新たに呼ばれた魔族の人員は、またクディル殿の僕になるんだろうなぁ……。




   *  *




 王城のとある一室からこんにちは。ゼクス・シュッツです。

 何故俺が王城に居るかって? それは、クディルさんがお倒れになり、城が混乱したどさくさに紛れてクロード様に引きずり込まれたからですね。何故一般市民の俺が城で仕事をしなきゃいけないんですか、特別報酬を要求します。

 さて、何だかんだで城で仕事をしていますが、この糞忙しい人間があふれる城で、暇そうな人が目の前に居ます。


「のう、配下が一人というのは不安なのじゃ。傍に居てたもれ」

「仕事があるから無理だ」


 魔族の姫である、リリム姫です。

リリム姫はクロード様にすり寄っていましたが、バッサリ断られました。


「ざまぁ……」

「ゼクス、口チャック」


 先輩に古い表現で端的に叱られました。あ、先輩も何やかんやで一緒に城で仕事をさせられてます。最近忙しすぎて、口数が減ってきました。


「けど先輩。この糞忙しい場所で男に媚びる事しかしない女は、ただの害虫に見えます。即刻、叩き潰すのが良いかと」

「ゼクス、口を閉じろ」

「あ、あのアマ終わった書類にコーヒーを溢しやがりました!」

「よし、ぶっ殺そうぜ!!」


 俺たち以外の文官も、ぬらりと得物を構えて立ち上がりました。おやまあ、皆例外なく目がイっちゃっていますね!


「ん? なんじゃ、そなたら」


 リリム姫は余裕そうです。


「そなたら程度、妾に――ぴぇっ!?」


 スターン、とリリム姫の頬をかすめて飛んだのは、ただのペンです。まあ、後ろの壁に刺さってますけど。


「ウザイのよぉ……。こちとら、カレシとの約束ブッチして働いてるのよぉ?」

「ここは職場なのよ? 男漁りの場じゃないのよ?」

「ねぇ、聞いてるぅ? そこの、雌豚姫ぇ?」


 お美しい女性文官が笑ってない目で微笑みながら得物を構えています。わぁ、なんて勇ましいでしょう。男性文官達は青白い顔で着席しました。


「わ、妾にこんな事をして許されると――」

「魔族って力至上主義なんでしょぉ?」

「やられる方が悪いんじゃない?」

「大丈夫、安心して? 躾し直してあげるだけだからぁ」


「「「何も問題ないわ」」」


 そう言って、彼女たちはリリム姫に襲い掛かり、あっという間に簀巻きにして、別室へと去っていきました。

 残された我々は何事も無かったかのように各々の職務に励むべく、再び書類に目を落とします。


「うちの国って、濃いですよね」

「本当の事でも言うな」


 先輩の目にキラリと光る心の汗が見えました。




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