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木陰のメリー  作者: 悠十
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第二十話 決闘

お久しぶりです、すみません(汗)

 抜けるような青い空の下、弾む声が響き渡る。



「レッディース、アーンド、ジェントルメェェェェン!! ついに、ついに、やってきました! 本日、この日!! 俺たちのアニキが、闘技場で、初戦闘だぁぁぁぁぁぁ!!!」



――うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

――アニキィィィィィ!!


 クディル・ラニードは死んだ魚のような目で、闘技場の舞台の上で、空を眺めた。



   *  *



 今回の対戦カード、カロス・ガロニュード様対クディル・ラニード様が何故闘技場にて戦うことになったのか。

 それは、ダラント国が生んでしまった残念なイケメン、カロス・ガロニュード様が英雄の一人、ローザ・チェザレ様とよりを戻さんと、ローザ様の想い人である仕事に追われるクディル・ラニード様に決闘を申し込んだ事に端を発します。


「そして、何故、無関係である俺が闘技場にて実況、解説などやらなくてはならないのか。誰か教えてください。実況、解説のゼクス・シュッツです」

「それはな、この闘技場で正式に雇われた実況、解説のメンバーの体つきを見れば解ると思うぞ」


 …見事な筋肉ですね。解りますん。


「……アニキ、アニキと騒ぐしか能がない実況、解説などゴミ以下だと思うのですが、先輩はどう思いますか? 俺は、さっさとクビを切ってしまえば良いと思います」

「過激な発言はやめような? たぶん、俺しか聞いてないと思うが」

「実況、解説の言葉が聞こえないなど、果たして俺がここにいる意味があるのか」

「居ないよりは居たほうが良いんじゃないか? マイクの前で叫ばれても困る、というぽっちゃり系職員の判断のもと、何故か俺とお前が代理に選ばれたわけだが」

「そのぽっちゃり系職員が代理を務めればいいじゃないですか」


 先輩はそっと目をそらし、言った。


「彼は、我先にと会場に入らんとする筋肉の荒波にもまれ、流され……」

「………」


 先輩と俺、どちらともなく、そっと手を合わせ、ぽっちゃり系職員の冥福を祈った。


「せめて、筋肉の荒波ではなく、バーゲンで戦闘力が十倍に跳ね上がったおばちゃんの荒波であればよかったのに」

「それは、はたしてマシと言えるのか…?」


 少なくともマッスルな香りはしない筈です。


「さて、実況、解説に選ばれてしまったのなら仕方がありません。後でアルバイト代をがっぽりいただく事にしましょう」

「そうしておけ」


 気を取り直し、舞台上の司会兼、審判に視線を向ける。


「えー、それでは、舞台上の司会さん、進行をお願いします」


 司会のマッチョは一つ咳ばらいをし、声を張り上げた。

 筋肉達の暑苦しい、どどめ色の歓声が闘技場に響き渡る。


「……やっぱり、帰ったら駄目ですか?」

「……耐えろ」


 筋肉族では無い俺達には辛い環境です。




   *  *




 さて、なんだか暑苦しく盛り上がっている会場を、何故か特別室から見下ろしているメリアナ・ラニードです。何で私はここに居るんでしょう? 要らなくない? 要らないよね、私?

 頭上で疑問符を飛ばしまくっていたら、眉尻を下げた困った様子でローザ様が話しかけてきた。


「ごめんなさいね、メリーちゃん。何だか巻き込んじゃって」

「えっ、いえ、そんな……」


 慌てて否定すると、ローザ様は「ありがとう」と言って、舞台に視線を移した。


「アレ、あの男、私を盾にして逃げた男で、別れたのに付き纏われてて、本当に迷惑しているの。イイトコのお坊ちゃまだから、余計に面倒で……」


 うえぇ……。それって、ストーカーでは? 深い溜息を吐くローザ様に心底同情した。

 そんな事を話していると、試合が始まった。


「ふん! 僕のローザに付き纏う下郎め! この僕が成敗してくれる!」


 筋肉達のアニキコールが響く中で、この発言。なかなかハートが強い。対するクディル兄様は、毎日の激務でやつれている。心配だなぁ……。


「あら……、クディル様、いつもより顔色が悪いわ……」


 ローザ様も心配している。大丈夫かな……。

 そうやってやきもきしている内に、舞台で動きがあった。


「君にこれが防げるかな? <<バーニングショ――>>」

「――ふっ」


――ズドォ!


 重い一撃が、ストーカーの腹に決まった。

 ストーカーは白目を剥き、泡を吹いて崩れ落ちる。立っているのは、クディル兄様だ。


「勝者、クディル・ラニードォォォォォ!!」

 

――う、うぉぉぉぉぉぉ!!

――アニキー!!

――ア・二・キ! ア・ニ・キ! ア・ニ・キ!


 勝負は一瞬で終わってしまった。

 そして、死んだ魚の様な目をした勝者に、筋肉達は歓声を上げ、アニキコールが会場内を埋め尽くす。

 そして、勝者インタビューをしようと筋肉がいそいそとクディル兄様に近寄った、その時だった。クディル兄様がふらつき……


――ドサッ……


 倒れたのだ。


「えっ……」

「にいさま……?」


――ア、アニキィィィィィィ!?


 会場は、混乱の渦に叩き込まれ、医者と思しき白衣の筋肉が駆け寄る。

 騒然とする中、医者はクディル兄様を診察し、目頭を押さえ、言った。


「過労です……」


 に、兄様ぁぁぁぁぁぁぁ!!



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