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木陰のメリー  作者: 悠十
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第十七話 魔族…襲…撃…

お久しぶりです、すみません。

 暖かな日差し。

 天に枝葉を伸ばす木々の隙間から光がこぼれる。


 その下で、私は彼を紹介しました。


「守護妖精のミシェルです。みーくん、って呼んでもイイノヨ」


 私、メリアナ・ラニードは、死んだ魚の目のように生気のこもらない目をして、リナとアリシアにミシェルを紹介した。

 二人に紹介されたミシェルは、すい、と視線を二人に向け、軽く片手をあげて挨拶し、リナとアリシアはミシェルを凝視している。


「これは夢、これは夢よ。悪夢なんだわ……」

「………」


 リナはぶつぶつと独り言をつぶやき、アリシアはミシェルを凝視して微動だにしない。どうやら二人とも、私と同じく『妖精』への夢を打ち砕かれたようだ。


「妖精って、妖精ってさ、もっとこう可憐で、可愛らしくて、神秘的なもので…」


 分かる、分かるよその気持ち!

 けれど、その言葉には、『守護妖精』だから、としか返しようがない。


「姫様達の『愛玩妖精』は、そんな感じだったよ」

「『愛玩妖精』?」


 首をかしげる二人に、今回生まれた『守護妖精』と『愛玩妖精』について説明した。


「あー、成程。そういう事なら納得できるかも」

「そうね。その守護妖精は、いかにもボディーガード、って感じの強面よね」


 納得し、リナとアリシアは頷く。


「それで、学園には申請したの?」


 学園では魔獣等と契約し、主従となっている生徒が居る事があるので、その旨を学園に説明し、許可が下りれば学園にも契約獣を連れて入れるのだ。

 今回の『守護妖精』もそれに該当するらしい。


「ううん、まだ。保護者のサインが必要なんだって」


 だから、今からクディル兄様に会いに王城へ行くのですよ。


「クディルさんに? お仕事が終わってから、外で会うんじゃ駄目なの?」


 リナの疑問はもっともだ。しかし、これには訳があるのです。


「お仕事が忙しくて、最近家に帰れていないんだって。だから、ついでに洗濯物の回収と、代わりの服を持っていくの」


 手に持った紙袋を掲げて見せれば、成程、と二人は納得して頷いた。


「それなら、今日が短縮授業で良かったわね」

「確か、魔族との和平が正式に結ばれるんで、式典に関して会議をするんだっけ」


 最近、ようやく魔族との和平式典の日取りが決まりました。

 世界的に注目を集める式典なので、色々と学園側にも影響が出るかもとかで、会議をするらしいです。我がバルード王国で式典をするため、当日はもちろん、前後の数日間は混乱が予想されるため、学園は臨時休校を予定しています。


「休校中は課題がいっぱい出そう……」

「うえぇ~……」

「学生のつらい所ね……」


 臨時休校中は、課題が出される予定です。嫌だなぁ……。

 しっかりしろ、と言わんばかりに小さくも逞しい手で私の頬を軽く叩くミシェルに、苦笑を返しつつも、ため息を吐いた。




   *   *




 こちら、バルード王国王城に居る、アラン・ヴィラックです。現在、クディル殿と休憩をとっています。

 目の前で茶をすすっているクディル殿は多忙の為、城に缶詰めになって三日、徹夜は二日目らしい。何という酷い隈だ。死んだ魚のような目をして、菓子をつまむその手には、力が無い。ゾンビのように廊下を歩くクディル殿を発見し、思わず休憩の為に茶に誘ってしまったが、それは正解だっただろう。俺、グッジョブ!


「クディル殿。少し仮眠をとったらどうだ?」

「……貴方に言われたくないです、アラン殿」

「ははは……」


 乾いた笑い声をあげる俺は、城に缶詰めになって四日。徹夜は一日目である。クディル殿ほど酷い隈はないが、くたびれて見えるだろう。

 魔族との和平式典の日取りが決まってからというものの、目が回るほど忙しい。それもこれも、裏でコソコソと動いている魔族の所為だ。


「今頃になって魔族が魔王に下剋上とか止めて欲しいですよね……」


 そう。魔王が人間如きに負けたと知った魔族の諸侯が魔王に対し、下剋上を企てているらしい。その為、その魔王に勝った人間を調べようと弟達や城の周りに潜むようになったのだ。その所為で、いろいろと神経を使っている。


「重要書類を保管してある書庫に侵入しようとしているのを見つけて……思わず手加減を間違えてしまって……」


 え、クディル殿、やってしまったの? 殺ってしまったの!?


「鬱陶しいのを増やしてしまいました……」


 信者が増えたんですね、分かります。


「いっそ、クディル殿に魔界を制圧してもらった方が楽な気がしてきたよ」

「……鬱陶しいのが増えるだけのような気がするので、嫌です」


 無理とは言わないんだね、クディル殿……。

 

「しかし、クディル殿。式典の日取りが決まった途端、コレだからな」

「……式典を延期とかは」

「するかもな。しかし、どちらにしろクディル殿は近いうちに魔界へ派遣されると思うぞ」


 ああ、クディル殿の顔が壮絶なまでに嫌そうに歪んでいる。

 何というか、魔族というのは『力が全て』という単じゅ……げふん、シンプルな思考が根幹にある。その所為か、魔族の姫君が連れてきた魔族の臣下達はチラチラとクディル殿を気にするようになってきていると、某クディル殿信者から報告があった。「俺達の兄貴を魔族になんか渡さない!」とのたまっていたのが、大変気持ち悪かった。

 まあ、そんな魔族なので、クディル殿にかかれば魔族の上層部にも信者が……ごふん、親しい友人が必ず出来ると踏んで、そんな提案が出ているのだ。


「いや、しかし、私には弟達の世話が……」

「……クディル殿。前にも言ったが、いい加減、彼等にも現実を分からせないといけない時期だぞ? クディル殿が難しいと感じるなら、俺に任せてくれないか? 完全には無理だが、周りに被害を出すような悪戯をさせないようにする位なら俺にもできる」

「え……」

「クロードも、昔は酷い悪戯坊主だったんだ。それこそ、君のところの三つ子ちゃんと遜色ない程にな」


 大変だったぜ、と過去を思い出し遠い目をする俺をクディル殿が凝視している。


「ど、どうやって止めたんです!?」


 三つ子の悪戯に苦労を掛けられ続けてきたクディル殿が、必死の形相で身を乗り出し、尋ねる。気持ちは痛い程に分かる。

 そんなクディル殿に、俺も真面目な表情で返した。


「心を折った」


 それからは、小さい可愛らしい悪戯はしても、周りに被害が出るような大きな悪戯をしない良い子になったよ、と笑う俺に、クディル殿はどん引きした。何故だ。


 そうして暫しの間愚痴をこぼし合っている、その時だった。




――ドゴォォォォォン!!




 突如、爆音が聞こえてきた。

 そして、聞こえてくる喧噪。




――魔族だ! 魔族が攻めてきたぞ!!

――城壁が破壊された!!

――上空に、飛竜を多数確認!!




 俺とクディル殿の顔から表情が消えた。




   *   *




 こちら、クディル兄様に保護者の同意のサインをもらう為に王城近くまで来ました、メリアナ・ラニードです。ちょっと、いえ、かなり動揺しています。

 とりあえず、見たことをそのまま伝えます。


 王城にもうすぐ着くというところで、突然あたりが暗くなり、不自然な影ができました。不審に思って空を見上げてみると、そこには巨大な爬虫類のものと思しきお腹がありました。予想外のモノの存在に呆気にとられていると、次々に何も無い空間に魔法陣が浮かび上がり、飛竜が突然現れました。あれは、きっと瞬間移動的な魔術でしょう。

 そうして数が出揃うと、王城の城門に攻撃を仕掛け、城壁を破壊しました。怪我人がでていないか心配です。

 城の方が俄かに慌ただしくなり、城壁の上に人が集まっているのが見えました。

 そして、遠目ながらも分かるほど豪華な鎧を着こんだ大柄な1人物が大きな声で…いえ、これも魔術的なもので声を拡大させていたんでしょうね、とにかく大きな声で宣言しました。


「我こそは、魔王軍四大将軍が一人、紅蓮のカースバイルなり! 此度、魔王による魔界と人間界との和平の約は無効である! 誉れ高き我等魔族は断じて貧弱な人間共に膝を折らぬ!! 最後の一人まで、戦い続け――ぐぼぉっ!?」


 あ、落ちた。


 どこからともなく飛んできた礫によって、派手な鎧の魔族が撃ち落とされました。それを皮切りに、部下と思われる魔族たちが剛速球で飛んでくる礫によって、次々に撃ち落とされていきます。あまりの正確さ、速さに混乱する暇もないようです。


 あ、最後の一人が落ちた。


 乗り手を失った飛竜達は、何かに怯えるように、慌てて上空から飛び去って行きました。

 周りの、特に筋肉質な野次馬からざわめきが広がります。


「まさか、いや、これはきっと……」

「何処だ、きっと城に……」

「あ、あそこ! あの城壁の上だ!!」


 城壁の上。礫を抱え、広いおでこを光らせて仁王立ちするのは……。




『アニキィィィィィィィィ!!』




 漢達の熱い歓声があたりに響き渡った。


 鳴り止まないアニキコール。

クディル兄様をひたすら褒め称える筋肉達。




 ……クディル兄様の生え際が心配です。





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