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木陰のメリー  作者: 悠十
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第九話 赤毛のソニーお兄さん




 バルード王国の中央公園は広い。全部で十八のエリアがあり、季節の花々が咲き誇り、緑溢れる庭園は涼やかな木陰を作り出す。そんな中央公園の第三エリアでは、二人の美男子と一人の平凡な少女が芝生の上に座り込み談笑していた。




   *   *




「ははぁ、これは恐れ入った。我が国の英雄様がオトモダチからだなんて、意気地の無い事を言うだなんて!」

「意気地がないとはなんですか。意気地がなけりゃ魔王討伐になんて向かいませんよ」

「あっはっは! すまん、すまん。そうだったな。無いのは遠慮と相手の逃げ道だった!」


 赤毛のオニーサン、よく分かっていらっしゃる!


 相談があると言われ、紹介されたのはこの赤毛のお兄さんだった。

 芝生の上にどっかりと座り、赤毛のお兄さんはニカッと気持ちのいい笑顔を浮かべ、自己紹介した。


「君が噂のメリーちゃんだね? 俺の名はアンソニー。気軽に赤毛のア〇お兄さんと呼んでくれ!」

「分かりました。ソニーお兄さん」

「……あれー?」


 すいません、ソニーお兄さん。私の中の譲れない何かが拒否反応起こしたので、ソニーお兄さんと呼びます。決して、あの名作をちょっとチャライ感じのソニーお兄さんで汚したくないと思ったからではありません。ええ、決して!


「……はっ」

「……クロード。何でそこでお前は鼻で笑うの?」

「愛称が何で本名より長いんですか」


 いや全く、その通りです。


「それに愛称で呼び合うなんて、妬ましい……」

 

 ……ナニモ聞コエナカッタヨー。


「メリアナ嬢」

「へぁ、は、はい!?」

「ハニーと呼んでも――」

「メリーでお願いします」


ハニーって、ベタだな、オイ!


「じゃあ、私の事はダーリンと――」

「クロード様とお呼びします」


 あ、何かクロード様が渋い顔してる。


「メリーちゃん。オトモダチに対して様付けって、ちょっと固いんじゃない?」

「そうですか?」


 オトモダチを強調するな、とクロード様が不満そうにこぼしていますが無視します。


「ほら、例えばクロちゃんとかさー」

「クロちゃん?」


 首をかしげ、提案を復唱し、ソニーお兄さんとクロード様の反応を窺う。


「………」


 クロード様はそっと胸に手を置き、空を仰ぎ見て、呟いた。


「……有りです」


 あ、あれ? 何か、ツボった? ツボりましたか!? そして私はもしかして、墓穴を掘りましたか!?

 慌てる私を他所に、ソニーお兄さんがカラカラと笑う。


「いやー。良かったな、クロード!」

「クロちゃん……。なかなか良いですね。メリー、今度からクロちゃん、と呼んで下さいね」


 ぬ、ぬわぁぁぁ!? 墓穴掘ったぁぁぁ!

 そうです。そうでした。ソニーお兄さんはクロード様の知人、もしくはお友達! 私の味方では無かった! 油断したぁぁぁ!!


「ほら、試しに一回」

「是非お願いします。出来れば愛を込めて」


 何言ってやがりますか、この英雄様は。


「さあさあさあ……」

「遠慮はいりません。さあ……」


 わ、分かった。分かったから迫ってくるな!


「ク、クロ……」


 長い沈黙が横たわり、わななく口で言う。


「……ードさん」


 いや、普通にクロちゃんとか無いよ。無理、無理だからね!

 クロード様を窺ってみれば、クロード様は再び胸に手を置き、空を仰ぎ見ていた。


「イイ……」


 何が?!




   *   *




「名前にさん付けとか貞淑な妻のようで――」

「ああ、うん。説明とかいいから。しなくていいから。折角区切ったんだから空気読んで」


 英雄様の発言は流すとして、どうしたソニーお兄さん。言っている意味が分からないんですが。


「うん。話が進まないから、さくっと本題に入ろう。実はメリーちゃんに俺の相談にのって欲しいんだ」

「ソニーお兄さんの、ですか?」


 本当に、急に話題をふられた。ところで、英雄様は何だか被っていた猫が剥がれ始めていませんか。


「君って、あの王立図書館で司書のバイトをしてるんだよね?」

「はあ……」


 何だ。本の捜索でもして欲しいのだろうか。しかし、残念ながら現在の私の仕事は裏方作業中心だ。けれど、いつまでも裏方作業ばかりしていられないし、これ以上は図書館に迷惑が掛かるかもしれない。出来るならこのまま学院卒業後は図書館に就職したいと思っている私は出来るなら図書館を辞めたくない。どうするべきか……。

 そんな事を考えていると、ソニーお兄さんが突拍子も無い事を言い出した。


「意識の無い人間の意識を呼び戻すにはどうすればいいと思う?」


 は?


「それって、眠ってる、って事ですか?」


 首を傾げて尋ねれば、ソニーお兄さんは少し考え、頷いた。


「ああ。それに近いな」


 なるほど。それなら……。


「耳元で大声で叫んで起こせば良いんじゃないですか?」

「あ、いや、それは……」


 ソニーお兄さんは苦笑しつつ、話す。


「ええと、そうじゃなくてね。魔法で強制的に眠らされているから、それを解く方法が知りたいんだ。その方法が載っているような魔導書や古文書とか図書館で見かけなかったかな?」


 うん? 魔法で眠らされてるって……。


「『眠り姫』ですか?」


 まるで童話の『眠り姫』みたいだ、って、お兄さんどうしました。顔が強張ってます、というか怖いです。何で睨むんですか?!


「アンソニー様」


 クロード様の呼びかけにより、ソニーお兄さんは肩をビクッ、と揺らした後、一つ深呼吸して再び緩い表情に戻った。


「あー、すまん。それで、その『眠り姫』なんだが、どうすれば起こせるか知っているかな?」


 んん? 『眠り姫』みたいな童話って、こっちにも似たようなのがあるのに、知らないの?


「そんなの簡単です。『眠り姫』は王子様のキスで呪いが解けるんです」


 あたりまえでしょ、と思いつつそう言ってから気付いた。


「そういえば、『眠り姫』って『いばら姫』っていうんでしたっけ」


 そう、『いばら姫』。こっちの世界での童話でも少し違うところもあるけど、大体が同じ内容、題名で驚いたんだった。図書館で見つけた少し古い童話集に載ってたんだよね。あ、けど本屋さんの絵本コーナーでは見かけたことは無かったから、もしかしたら結構マイナーなお話なのかもしれない。


「『いばら姫』……」


 現にソニーお兄さんが考え込んじゃってる。やっぱり、あまり知られていないお話なんだ。


「あの……」


 ソニーお兄さんに、知らなくても無理は無いですよ、と言おうとしたら、ソニーお兄さんは少し落ち着かない様子で立ち上がり、私に告げた。


「ありがとう、メリアナ嬢。このお礼は必ずする。私は貴女の味方だ」


 は? え、何? 味方?


「え、あの……」

「すまない。急いで帰らねばならないんだ。失礼する」


 急に仰々しい言葉遣いで別れを告げ、颯爽と踵を返し去っていくソニーお兄さんの背中を黙って見送る。一体なんだったんだ……。


「あ……」


 ソニーお兄さんが見えなくなった頃、ふと、気付いた。そういえば、魔法の話から、何で童話の話になったんだろう。

 そんな疑問に首をかしげる私に、クロード様が私の肩に手を置き、告げた。


「そろそろ帰りましょうか。送って行きます」


 クロード様、油断も隙もありません。


「え、いえ、遠慮しま――」

「それから、クロード様、じゃありませんよ。クロードさん、と呼んでくださいね」


 すいません。心を読まないでいただけませんか。






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