プロローグ
季節は淡い桃色のサラの花が咲き誇る春。
その喜びの季節を迎えた今日この日、英雄が一人、このバルード王国のアルセルド王立学院に帰還した。
英雄の名はクロード・ヴィラック。
バルード王国の侯爵家の次男坊である。
彼は一年前に世界に宣戦布告してきた魔界の王、魔王の討伐の王命を受け、旅立った。しかし、彼が齎した結果は、魔王討伐ではなく、もっと素晴らしいもの、魔族との和平を取り付けてきたのだ。
こうして彼は勇者としてではなく、英雄として国に帰還したのだ。
そんな彼は、容姿端麗、文武両道、金も地位も持ち合わせているという超優良物件で、英雄となる前から女性から絶大な支持をうけ、同性からも多大な信頼を勝ち取っていたが、この件で更に注目を集めた。
そんな向かうところ敵なしのクロードが、休学中だった学院に、何の前触れも無く姿を見せた。
生徒も教師も驚きつつ、彼の周りに群がった。
クロードの他にも英雄である女性が二人、隣国の王女である聖女プリシラ・セシードや、同じ学院に通っているユリア・ラニードが居たのだから、更に騒ぎは拡大し、英雄を一目見ようと人々は彼等の元へと足を運んだ。
そして、そんな人々に見向きもせずに、黙々と歩を進めるクロードが辿り着いたのは、美しい花々が咲き誇り、豊かな緑の木々が茂る中庭だった。
そしてクロードは中庭の端、普段余り人が来ない白い花を咲かせるメウナの木に向かい、歩く。
そして、彼は目的の人物を見つけた。
まるで周りの喧騒など関係ないとばかりに、メウナの木の下で、一人で静かに本を読んでいる少女を。
彼女は周りのざわめきに気付き、本に落としていた視線を上げた。そして、クロードが自分を見ていた事に気付いたようで、少し困ったように、それでいて不思議そうな顔で首をかしげ、微かに微笑んだ。
それを見たクロードは、己の内に湧き出た衝動に遂に耐え切れず、彼女の元へと歩み寄り、膝をついた。
困惑する彼女としっかり目を合わせ、懇願した。
「メリアナ・ラニード。貴女を愛しています。どうか私と結婚して下さい」
クロードの口から飛び出したとんでもない台詞に、周囲は一瞬の沈黙の後、悲鳴や驚愕の声を上げ、目の前の少女、メリアナ・ラニードは驚きで目を丸くした。
魔王と英雄の物語は最良と思われる結末を迎えた。
そして、今、第二の物語が幕を上げる。
軽い読み物として楽しんでいただけたら幸いです。