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未知の存在

 某時刻。遺体発見現場にて――


――――これは……!?

小川は絶句していた。目の前にある手渡された『なにか』の存在。そして、その圧倒的重量感に、思わず息を呑んだ。

その品の正体は、紛れもなく、『銃』だった。

ただの『銃』ではない。小川も、人目でわかった。

普通、日本で使われている拳銃は、重量が1キロにも満たないが、この銃は違う。圧倒的な存在感の大きさに、重量感。銃ではないんじゃないかと感じられるほどである。

「なぜ……こんなモノを……」

 恐る恐る小川は、鈴木の顔を覗いた。

そこには、顔色ひとつ変えずに、こちらを見ている鈴木の姿があった。

「ほぉ。この『銃』が何か知っているのか?」

 小川は知っていた。この『銃』の名前を――そして、その威力・・も……

小川が、銃を右手を軸にして持ち、リボルバーの弾を、装填されているか、確認していた。そして、静かに小川は口を開いた。

「正式名称、<パイファー・ツェリスカ・リボルバー>。通称、パイファー・ツェリスカ。『世界最強の拳銃』といわれている銃ですね。色と形の細部が少し異なってる部分もありますが――」

「よく知ってるじゃないか」

 鈴木は、この銃がなんであるか知っているのに驚いたようだ。表情が少しだが、ほがらかになったような気がした。

リボルバーの弾を確認した小川は、今自分が思っている事を率直に口にした。

「待ってください!! どうしてこんなモノが、日本にあるんですか! それに、これは実用性皆無じゃないですか!! まず立って撃てない拳銃であるから――」

 小川が必死に、銃に関する自分の知っている情報を、説明し、この銃の利用価値を問いている。

「ほぉ。そこまで詳しいなら、説明は不要だ。使用方法を教える手間が省けた」

 関心したような目つきで、小川を鈴木はみている。

「だから使用っていったって、これ実戦向けじゃないですし、まず対人用ですら――」

「そうだな」

 ここまでの説明を加えて、きっぱりと答える鈴木がいた。

この人はわかっている。この銃が。使用目的が。方法が。わかっていないのなら初めからこんな銃は渡したりなんかしない。こんな……非合法の銃など――

心の中で小川は葛藤しながら、当然の質問を鈴木にぶつける。

「ならこの銃は……何に使うんですか?」

「いずれわかる時が来る。だがな……もしわからなければ――」

 鈴木は言葉をにごした。

わからなければ――なんなんだろうか。この銃はまず対人用ではない。大型の像や戦車などの対物、対猛獣用の銃だ。この国、日本では大型の動物が身の回りを闊歩かっぽし、危険に晒されるような国ではないし、戦時中の国でもない。戦時中だとしてもこの銃は携帯にも不備だし、戦車やヘリコプターに打ちこむレベルの代物だ。まず使用することなんてありえない。

小川は、得意の解析、思考の圧縮をフル活用して使い道を、模索もさくしている。

自分の世界に半分以上足を入れている小川に向かって、鈴木は、小さくささやいた。

「――今はわからなくてもいい。その時になったらわかればいいんだ。過度に考えすぎるな」

「……はい」

 小川は、現実世界に身を戻したようだ。手にした銃を、懐に忍ばせる。

しかし、大きい銃なため、少しスーツにふくらみがみえた。重いのもあって、スーツが伸びている。右のホルスターにかかっている正式な銃が、ちっぽけなモノに見えた。

「俺は、このあたりに聞きこみと調査をしてくる。小川はここで待機していてくれ。犯人ってのは、もう一度現場に戻ってくるケースが多いからな」

 小川は、いまだに納得のできない様子であったが、背筋をまっすぐにして、伸びたスーツを直しながら『はい』と答えた。

そして、鈴木は小さな声で、つぶやいた

「死ぬなよ……」

「はい?」

 それは、微弱で細い声だった。雨の騒音も相まって、鈴木の声は小川には聞こえていなかったらしく、小川も何をいったのか追及はしないようだ。

今の一件で聞きたい事が山ほどできたが、この事件をとりあえず解決してから話を聞こう。

小川はそう思い、あらたに気持ちを切り替えていった。

 話をひと段落させた鈴木はきびすをかえし、近くに待機している警官と一緒に歩き、少し話をした後、夜闇に姿を消していった。

小川もただ待機をして、忠実に命令のみを遂行する程、馬鹿ではない。

遺体周辺の不審物、遺体の損傷等、様々な方面から、事件を解決にみちびくヒントを探していた。

そして、小川は考えていた。

なぜ、学生が犯人だとわかったのだろうか……。ここのにある何かをヒントに、特定したのか? なら学生という曖昧な表現ではなく、個人名が特定できる状況ではなかったのか? さらに聞くには、相当危険な人物と見てとれる。反抗したら『殺せ』とまで言われているんだ。いまだにこの発言の謎は、解明されないままだ。

首を傾げつつ、雨で視界の悪い現場を目で、そして手で物色する。片手に傘があるのがもどかしい。

その時、何も情報になるものが見つからず、苛立ちを隠せない小川の前に――


人影が見えた。


見えたといっても距離は遠く、影のシルエットしか見えない。雨と闇が支配しているこの一帯で、判断するのは不可能だった。しかし、それが我々刑事や、警官ではないことは、はっきりとわかった。

それは、そのシルエットの身長だった。

小さい。とても男性の身長ではなかった。女性警官や刑事かと最初は小川も考えたが、どうやらそうでもないらしい。まず警官や刑事ならこの場にいるはずだ。後からやってくるにしても、今の警戒態勢で女性が一人で行動するのは、例え刑事だとしても危険だ。

現にこの現場にも、小川以外も警官が数人待機している。

「あれは……なんだ?」

小川は思わず声にだしていた。今人影に気付いているのは小川だけだった。小川は、人影に向かって一歩一歩、足場の悪い現場を踏みしめ、人影に向かっていく。

そう……この出会いが、小川の人生観を根本的に揺るがせ、生涯忘れられない出来事になるとは知らずに――――

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