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両親

母から電話が架かって来た。

すみれが居なくなって2ヶ月になろうとしていた時のことだった。


「すみれさん、居ないの?

 連絡が取れないのよ。

 どうなってるの、あんた達。」

「母さん………。」

「何かあったの? あんた達、どうなってるのよ。」

「母さん、今、仕事中だから………。」

「じゃあ、今日の夜、あんたの家に行くわ。」

「え?」

「お父さんと二人で行くから!」

「母さん………。」

「決めたからね。

 お父さんと待ち合わせていくから……また後で電話するからね。」

「母さん!」

⦅切れた………………勝手に決めて……。⦆


言いたいことだけ言って母は電話を切った。


⦅はぁ………こっちは、話すことが無いんだ。

 見つかってないし、帰って来てない……連絡すらも取れなくなってるのに。

 何を話せばいいってんだ。

 何も話せない。分からないんだから……全く何もかも分からない。⦆



母の電話の後に電話が架かって来た。


「あなた……私は別れてないわ。

 別れるって言っても別れた遣らないわ。」

「今、仕事中。」

「あなた……捨てないで……捨てないでよ。」


紬の言葉を聞かずに電話を切った。

俺は着信拒否をしたかったが、部下なので出来るわけが無かった。


⦅社内不倫……リスクが高すぎるよな……。

 紬とのことも決着をつけないと、な。⦆



俺は残業をせずに家に帰った。

帰ろうとすると紬が「もうお帰りですか? お早いんですね。」と言いに来た。


「用事があるから帰る。みんな、先に帰って済まない。」

「いいえ、俺ももうすぐ帰りますから気にしないで下さい。」

「本当に済まない。じゃあ、先に帰らせて貰うよ。」

「お疲れ様でした。」

「お疲れ。」


俺は紬が恐ろしい。

もう可愛いとも思えなくなっていた。

何かするのではないかと恐怖の目で見てしまう自分に気付いた。

この後も家に来られたら困ると思いながら家路を急いだ。

ふと思い出した。


⦅この道の先に……すみれと待ち合わせで使った店があったな。

 すみれは……いつも、同じ物を注文してたな。⦆


すみれは今どこで、どんな暮らしをしているのだろうか――俺は待ち合わせに使った店を思い出して、その頃の優しい時間を思い出した。


⦅あの頃は、二人で居るのが楽しかった。

 いつからなんだろう……俺の気持ちが冷めたのは……。

 紬から告られて、嬉しかった。

 まだ男で居られて……無精子症と分かった時、男ではないと言われたような気が

 したんだ。

 誰にも、そんなこと言われてないのに……。すみれにも……。

 だから、紬と付き合って男としての自信を保てたんだ。

 その頃からか……すみれとの時間が楽しくなくなったのは……。

 だけど、俺は紬と結婚する気など全く無かったんだ。

 それが……どうしてなんだ。

 あぁ………紬のことも早く終わらせないと……これ以上、付き合っては駄目

 だ。別れないと……。⦆


そんなことを考えながら帰宅した。

幸いなことに紬が追いかけて来なかった。

ホッとした。

あれから紬が何度も待ち伏せをしたから、俺は紬が怖かった。


マンションの前で母と会った。


「母さん! 早かったんだね。」

「ここで待つのは、どうかと思ったんだけど……。」

「ごめん。待たせた?」

「10分くらいかしら?」

「悪かったなぁ………。」

「お父さんは後から来るわ。」

「そっか……。」

「すみれさんは? 居ないの?」

「うん、そうなんだ。」

「なんで、居ないの?」

「家で話すよ。」

「そうね、ここで話すことじゃないわね。」

「母さん、夕食は?」

「すみれさんが居なくても居ても、食材があってもいいと思って持って来たのよ。

 台所、入っていい?」

「うん、いいよ。」

「そう、じゃあ、作るわね。」

「ありがとう。母さん。」


母と話しながら自分の家の玄関に着いた。

玄関のドアを開けて、リビングに入っても真っ暗だった。

照明を点けて、見回しても居ないのだ。すみれが……。

もう何日も同じことを繰り返している。

そして、すみれが居ないことを確認するのだ。


「すみれさん、出て行ったの?」

「うん。」

「そうなの……何が不満だったのかしら?」

「俺が悪いんだ。」

「無精子症のこと? それは……仕方ないじゃない。」

「違うんだ……。」

「え? 何か言った?」

「ううん。今日は母さんのご飯が食べられるんだな。」

「この前のお正月以来よね。」

「そうだね。」


父が来てから何もかも話そうと、俺は思った。

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