消えた情熱の炎
すみれの居場所は分からないままだった。
日が経つにつれて、もう二度と会えないのではないかと俺は思うようになった。
それが悲しいのだ。
もう冷めきっていると思っていた夫婦だったのに……違っていたんだろうかと思う。
いや、違う。
冷めきった夫婦にしたのは俺だ。
俺が相川紬に現を抜かしたからだ。
そう気づいても、相川紬との逢瀬は続いている。
切れないまま続けているのだ。
ただ、以前のような燃え上がる炎は消えかかっている。
残り火だけのような情熱の炎なのだ。
「ねぇ、離婚しないの?」
「え?」
「だって、帰って来ないままじゃないの?」
「探してるんだ。」
「どうして? 探す必要があるの?」
「探す必要? 妻が居なくなったら探すのが普通だろう!」
「普通の夫婦じゃなくなったのに?
違うか……前から普通の夫婦じゃないもんね。」
「………………それで、なんなんだ? 重要な話って……。」
「そうだった。重要な話なのよ。」
「勿体ぶらないで言えよ。」
「あのね、喜んで頂戴!」
「え? 何を?」
「デキました!」
「え…………。」
「赤ちゃんが出来ました。私のお腹の中に貴方の子が出来たのよ。
喜んで! 奥さんが出来なかった子を産んであげられるわ。」
「待てよ! それ、俺の子じゃない!」
「どうして? 貴方の子よ。」
「俺の子じゃない! 旦那の子じゃないのか?」
「違うわ!」
「絶対の俺の子じゃないよ。出来るわけが無いから!」
「どうしてよ!」
「俺は………俺は精子が無いんだ。」
「え………………嘘よ! そんなの嘘だわ。」
「1匹も居ないんだ。無精子症なんだ。」
「………………うそ…………。」
「だから俺の子じゃない。旦那の子だよ。」
「嘘よ……だって、貴方、コンドーム使ってたじゃない。」
「それは一応、予防を兼ねてな。性病の予防。」
「そんな……私が誰彼なく抱かれる女と思ってるの?」
「誰彼なく、とは思ってないけど、一応着けるのが相手への正しい行為だと思って
るんだ。」
「…………貴方の子よ。」
「だ・か・ら! 違うって、あり得ないんだから!」
「私は貴方の為に妊娠したのよ。」
「何を言ってるんだ?」
「貴方が私を求めてるから。」
「え…………?」
「貴方は私を選んで結婚すると思うから。」
「しない。離婚してないのに、再婚なんか考えられるかよ!」
「そんな…………。」
「俺はプロポーズしてないよな。一度も!」
「でも……………奥さんより私と過ごす時間の方が多かったわ。」
「それは誘われれば、その気になるだけだ。」
「そんな………嘘よ。」
「俺達、誰からの誘いで始まったっけ?」
「………………。」
「その時に俺は言ったよ。
家庭を壊さない!って言ったぞ。」
「…………………でも、愛してくれてるわ。私を!」
「愛情だったかどうか分からないな。」
「え…………。」
「欲望だったと思う。」
「酷いわ!」
「お前、言ったよな。
お互いに家庭を壊したくないから、そういうつもりで付き合うと言ったよな。」
「それは……そう言わないと付き合ってくれないと思ったから……。」
「じゃあ、最初から俺を騙してたんだ。」
「騙すなんて!」
「違うのかよ!」
「………………………。」
「子どものことは、そっちの家庭の話だ。
俺には子種は全く無いから、俺の子じゃない。」
「あんなこと……したのに………。」
「え? 今なんて言った?」
「貴方の為に妊娠したのよ。」
「何を…………。」
「コンドームに穴を開けたわ。」
「え……………まさか………針で穴を開けたのか?」
「そうするしかないじゃないの! 貴方と結婚するには……妊娠するしか……。」
「穴を開けても妊娠出来ないはずだ。
だから、旦那の子だよ。」
「違う………貴方とあの人の血液型が違うから………。」
「何を言って………まさか……お前………。」
「ええ、そうよ。ネットで同じ血液型の男性の精子を求めたのよ。」
「なんで、そんなこと………。」
「貴方と結婚したいの。貴方の妻になりたいから……あんなことしたのよ。
貴方のせいよ!
好きでもない素性も定かじゃない男が、精子の提供は……SEXで………。
それでないと無理だって言ったのよ。」
「お前………そんな危険なこと………。」
「貴方のせいよ! 貴方のせいで………私は身体を………好きにさせたのよ。
だから、貴方は私と結婚しないといけないのよ。
責任を取ってよ!」
「そんなこと言われても……それって俺のせいなのか?
俺は子どもを産んでくれって言ってないぞ。
結婚したいとも言ってない。
それなのに、俺が悪いのか?
お前が勝手に決めたことじゃないのか?」
「うわぁ~~~~ん。」
紬は泣き崩れた。
俺はどうしたら良いのか分からなくなった。
⦅不倫をした罪は認めるが、紬のお腹の子に対しての責任は無いと言い切れる。
それでも、紬は俺のせいにして、俺に結婚を迫るのか?
紬……お前を変えてしまったのは俺なのか?
だから俺が悪いのか?⦆
泣き止まない相川紬をホテルに置いて俺は家に帰った。




