病院で
急いで病院に行った。
到着してから俺はどの病棟かさえ聞いていなかったことに気付いた。
⦅しまった……病院名は聞いたけど、どの病棟なんだろう……。
俺、何も聞いてないのに会社を飛び出した。
馬鹿だ……馬鹿だなぁ……。⦆
スマホを見た。
⦅森下夫妻からの連絡を待つしかない。けど、一応受付に聞こう。教えてくれるかもしれない。⦆と思った俺は受付に聞いた。
「あの、済みません。」
「はい、何でしょう?」
「救急で搬送された人が何処に居るか知りたいんです。」
「どなたのご家族でしょうか?」
「木村すみれの……夫です。」⦅夫って言って良いんだよな。⦆
「木村すみれさんですね。」
「はい、怪我をして来ているはずです。」
「お待ちください。」
その時、スマホが鳴った。
「あ……ちょっと電話に出ます。」
「はい。」
「木村さんですね。」
「はい。森下さん、お電話をお待ちしていました。
今、病院の1階受付に居ます。」
「まぁ、直ぐに来て下さったんですね。
すみれさんは救急病棟です。」
「はい、今から行きます。ありがとうございました。」
「お待ちしています。」
「木村すみれさんは救急病棟です。」
「あ……はい、ありがとうございました。」
「こちらを付けて下さい。」
「はい、分かりました。」
面会者用の名札を胸に着けて救急病棟へ向かった。
病棟の前で森下康彦が待っていた。
「木村さん、こちらです。」
「はい。」
ベッドに居るすみれを……俺は見た。
すみれは傷ついた身体で静かに、でも、はっきりと事情聴取をしている警官に話をしている。
それを俺はただ見ているだけしか出来なかった。
頭の中は混乱していて⦅何があったんだ………なんで怪我をして緊急搬送されたんだ………。⦆だけが何度も繰り返して出て来た。
「では、これで事情聴取を今日は終えます。
またお話を伺う場合がありますので、その時はご協力下さい。」
「はい、今日はありがとうございました。」
「いえいえ、早く傷が治られますよう……。」
「ありがとうございます。」
「森下さん……お話が……。」
「あ……やっぱり?」
「何が、あ……やっぱり?ですかっ!」
「ここでは皆さんのご迷惑だからさ、あっちで……な。」
「もう署長!」
「否、今はしがない探偵だから……。」
「有り得ませんよ。」
「あ……やっぱり? こんなことしちゃいけないよね。」
「そうですよ。署長が探偵だなんて……。」
「あ……そこ?」
「そうですよ。俺なんかショックで……もう……。」
「まぁまぁ……で、話はそれ?」
「あ! 違います。この事件のことです。」
「やっぱり、それ……か。」
「じゃあ、聞きましょうか。」
「オッケー。」
「署長、軽すぎます。」
「俺って元からコレよ。」
「はぁ…………。」
会話が聞こえて、俺は思わず聞いた。
「森下さんって署長さんだったんですか?」
「ええ、一応。
ごめんなさいね。五月蠅かったわね。」
「いいえ、署長になった方が探偵をされていることに驚きました。」
「そうよね。私は署長になった事に驚いたわ。」
「そうなんですか。」
「あの人の話はこのくらいにしましょう。
木村さん、心配で急いで来られたのに……ごめんなさいね。」
「いいえ。」
「すみれさんも話したいでしょう、ねっ!」
「あの……。」
「外しましょうか?」
「いいえ、居て下さい。
出来れば、森下さんから話して下さい。
私、少し話すのが怖いので……。」
「分かったわ。じゃあ、部屋を出て話しましょうね。
聞くのも怖いかもしれないし………。」
「そうして頂くと助かります。」
「すみれ! 怖いって……どういうこと?
怪我の具合は?」
「あなた……心配してくれてるの?」
「どんな怪我か分からないし、なんで怪我をしたのか分からないから不安だった。
無事かどうかも何も分からないまま来たから……。」
「あなた……。」
「良かったよ。」
「あなた……私、大怪我なのよ。」
「あ………ごめん。俺って馬鹿だな……。
すみれの命に別状がないって分かるから……先生に聞いてないけど。
話出来るから、大丈夫なんだなって思って……嬉しいよ。」
「…………そうなの。」
「聞いて来るよ。
すみれは疲れただろうし、事情聴取で……。」
「人生初の事情聴取……ふふふっ……。」
「笑えるなら大丈夫だね。じゃあ、聞いて来るよ。」
「ええ………。」
俺は廊下に出た。
俺の後姿を見て「まるで、不倫する前のあの人みたい……。」と、すみれが呟いたことを俺は知らない。




