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失踪の理由

すみれと話のは久し振りで俺は………言葉も出なかった。

何も言えずに居ると、すみれから話をしてくれた。


「あなた………元気だった?」

「うん、ありがとう。すみれは?」

「うん、元気よ。」

「済まなかった。本当に済まなかった。

 彼女とは本気じゃなかったんだ。

 もう別れた。」

「そう………。」

「だから、すみれに……俺はこれからの人生全てを懸けて贖罪したい。

 させて欲しい! 頼みます。」

「………あなた、私は気付いてたのよ。」

「え…………。」

「相手が誰か分からなかっただけで、あなたの心に私が居なくなった事……

 気付いてた。

 気付いてたけど、知らぬ振りをしてたの。」

「すみれ……本当にごめん。」

「辛かったの。苦しかったの。

 ねぇ、分かる?

 配偶者に裏切られた気持ち……分からないわよね。」

「すみれ………。」

「あの日、メールを貰って、事実を知ったわ。

 はっきりしたの。

 私は所謂サレ妻だってこと………。」

「すみれ、本当にごめん。」

「私ね、あなたを失うと家族が居なくなるの。

 それが途轍もなく恐ろしかった。

 だから、見て見ぬ振りしようと思ったの。」

「すみれ……ごめん、ほんとに……ごめん。

 俺が悪い、全て俺が悪い………。」

「あの日、自宅で仕事してたらメールを頂いて、お会いしたの。」

「すみれさんが仕事で使っておられるメールだったのです。

 それで、アドレスを把握出来ました。

 何とかして連絡を取りたかったので、すみれさんのことも調査しました。」

「本当に連絡して頂いて……助かりました。」

「否、探偵としては失格ですがね。守秘義務違反ですからね。」

「それは、そうでしょうけど……。」

「あ……お二人の話し合いに入ってしまい申し訳ありません。

 さ、どうぞ……話し合いを続けて下さい。」

「………あなた………。 

 森下さんはご夫妻で会って下さって……私に話して下さったわ。

 あなたが会社の部下の方と……不倫してることを……。

 それから、その内容については後で詳しく話すからって仰って……。

 今は、それよりも私の身の安全の為に保護をと仰ったの。

 そのために直ぐに自宅へ戻って森下さんが仰った通りにしたわ。」

「何を?」

「何も持たずに家を出ること、持っていた財布を目立って尚且つ不自然じゃない所

 に置いて来るようにって……。」

「財布がダイニングテーブルの上に残ってたのは意図的だったのか。」

「ええ、そうよ。」

「会って間もないのに信じて下さったんです。」

「それは………。」

「それは、動転していたからでしょう。

 気付いて居ても知りたくなかった事実を知ったら……考えることも出来なかった

 んでしょうな。」

「いえ………そんな………。」

「いいや、そうですよ。

 でも助かりました。

 すみれさんを保護することが私どもの願いでしたから嬉しかったですよ。」

「森下さん、ありがとうございます。」

「あ……木村さん、すみれさんの安全は確保してからお会いしたので、どうかご安

 心を!」

「安全を確保とは? どういうことですか?」

「牛島杏樹さんの行動を当日、部下に見させていました。

 何か動きがあれば連絡が私に入るようにしました。」

「そんなに……何かする可能性があるんですか?

 俺は記憶にさえない女性なんです。

 すみれに至っては見知らぬ女性じゃないですか……それなのに……。」

「想いを寄せる……それは、静かに相手の幸せを願う思いもあれば、相手を奪う為

 には何でもするという想いもあるんです。人間には……。」

「そうですか………。」⦅そういえば、紬も……。⦆

「それで、私………これからもシェルターに居たいの。」

「え…………もう……無理なのか……俺とは……もう………。」

「今はその方が安全だとお話したのです。

 実は、今日も牛島杏樹さんの行動を部下に見て貰っています。」

「シェルターの方が安全ですわ。

 DV被害者が入居していますので、スタッフも対応出来ます。」

「はぁ……………それは、そうでしょう。

 すみれ、俺とは……その……離婚……なのか?」

「……教えて………どうして相川紬さんに惹かれたの?

 私じゃ駄目だったのは何故? 私のどこが悪かったの?」

「俺は………お前に不妊治療をさせてしまって……。」

「うん。」

「お前は不妊症じゃないのに……俺の親が無理やり……病院へ連れて行った。」

「うん、でもっ! あなたは私を守ってくれて……何度も言ってくれたわ。

 『子どもが居なくてもいい。』って………嬉しかった。

 あなた優しかったのに……なんで? なんで私以外の人と………。」

「その後で、俺が病院で検査を受けて無精子症だと分かっただろ。」

「………あなた………辛かったでしょう。

 私、お義母さんに『石女(うまずめ)』って言われてたから………

 あなたの辛さを少しだけでも分かっていると思ってたわ。」

「俺はすみれを母親に出来ない男だと言われたんだ。」

「誰もそんなこと言ってないわ!」

「無精子症ってこと自体が……その診断が下ったことが……。

 男じゃないって言われたのと同じなんだ。俺にとっては………。」

「子どもが居なくてもいい!って言ってたじゃないの。」

「俺が子宝に恵まれない理由なのは…………辛すぎたんだ……。

 今までと違うようになったんだ。」

「それは、私を下に見てたってこと?」

「えっ?」

「分かってないの? 

 女が原因の不妊より男が原因の不妊の方が辛いって言ってるのよ。

 あなたは………。」

「そう言われたら……返す言葉も無い。」

「無精子症が理由なの? 違うでしょう。

 何が原因だったの?

 何がいけなかったの? 私の何がいけなかったの?」

「……告られたんだ。好きだって……。

 俺は男に戻れたような気がした。」

「えっ? あなたは男だわ。」

「無精子症でもか?」

「そんなこと関係ないわ。あなたは男よ。」

「俺は男では無いように……思われてると感じてたんだ。

 それに………なんとなく気を遣わせてしまっていて……。

 居場所が無くなったような気もした。」

「そんな…………。」

「俺は不倫して男としての自信を取り戻せたんだ。」

「身勝手だわ。」

「そうだな……身勝手だ。」

「私は悪くなかったのね。」

「うん、悪くない。悪かったのは俺だ。」

「そう……………私は離婚も考えてるわ。

 離婚したら、もう私は守られなくてもいいから……。

 あの牛島杏樹さんて方の対象者じゃなくなるわ。」

「そうだな……対象者じゃなくなる……な。

 そうか………やっぱり、もう駄目なんだな。」

「………もう少し考えるわ……これからのこと……。」

「うん、分かった。

 …………辛い想いをさせただけの結婚で申し訳なかった。

 済まなかった。」

「………………………謝れば、あなたはスッキリするのでしょうね。

 でも、私はスッキリしないわ。」

「そう……か………。」

「……あの森下さん、帰ります。」

「分かりました。帰りましょう。」


スマホを見ていた森下康彦が「待て!」と言った。


「どうしたの? 康彦さん。」

「動いた。」

「えっ?」

「シェルターに向かっている。」

「場所を変えましょう。」

「緊急に泊まれる場所はあるんですか?」

「私の妹の家があります。」

「奥様の?」

「はい、妹は独身ですから、何かの時は協力して貰っています。」

「シェルターのスタッフにメッセージを送った。」

「ありがとう。私はシェルターに戻ります。」

「あの……すみれは何方が?」

「それも大丈夫です。」

「本当に?」

「ええ、安心して下さい。元警察官がすみれさんを送りますから。

 元婦人警官と元刑事です。

 定年退職後ですけど、まだまだ現役に近い年ですので、ご安心を。」

「そうですか……俺は何をすれば?」

「何も無かったようにご自宅へお戻りください。」

「はい。」

「すみれさんに会ったことは誰にも話さないで下さい。

 宜しいでしょうか?」

「はい。分かりました。

 すみれ! 無事で……これも俺のせいだから……済まない。」

「これは、あなたのせいじゃないわ。

 あなたも無事で居て!」

「俺? 俺は大丈夫だ。」

「どんな人があなたを慕ってるか分からないもの……。」

「俺……モテないけどな。」

「すみれさん、急ぎましょう。」

「はい。」

「すみれ、元気で!」

「あなたも……。」

「森下さん、すみれのこと頼みます。」

「勿論です。」

「このお礼は必ずさせて頂きます。」

「期待してますよ。貧乏探偵事務所なので……。」

「必ず!」


すみれを連れて森下夫妻は出て行った。

俺は家に帰って行った。

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