すみれ
その部屋のソファーにすみれが座っていた。
俺は嬉しかった。
会えたのだ。
「すみれ………。」
「お座りください。」
「あ………申し訳ございません。
今日はこのような場を設けて下さり誠にありがとうございます。
すみれ……会ってくれて本当にありがとう。」
「お二人で話される前に、今回のことをお話します。」
「あの、すみれからではなく……ですか?」
「はい、先ずは私どもが知ったことをお話します。」
「あ……はい、分かりました。」
「私はこの施設を運営している森下弥生の夫で森下康彦と申します。」
「初めまして。森下さん、妻がお世話になり、誠にありがとうございます。」
「いいえ、大袈裟だとも思いましたが……こちらで保護させて頂きました。」
「保護?」
「はい、驚かれることと存じますが、私の話を聞いて下さい。」
「……はい。」
「木村さん、こちらの女性を御存知でしょうか?」
森下がテーブルに置いて差し出した写真は1枚だった。
「何方でしょうか?」
「御存知ないですね。やはり………。」
「あの、この女性が何か?」
「この女性は木村さんの高校の時の同級生です。」
「高校の時の同級生? 同級生……分かりません。
本当に、この方が同級生なんですか?
それに、何故この方が……すみれに関わっているのでしょうか?」
「実は、私は元刑事でして……。」
「えっ? そうなんですか……。」
「退職後は探偵事務所をやっています。」
「そうなんですか……?
……あの、それで……そのことが何か関係あるのでしょうか?」
「私の事務所にこの方が来られたのです。」
「はぁ…………?」
「この方は木村さんとの未来を夢見ていまして」
「待って下さい。俺は確かに不倫しました。
不倫しましたけど、知らない女性から未来を!とか言われても困ります。」
「そうですよね。そうなんですよ。」
「は?」
「この方からの依頼ですが、最初は木村さんの生活全般についてでした。
それが終わってから、再度依頼されました。
それが、木村さんご夫妻を離婚させることでした。」
「えっ?」
「木村さんのこと大変ご存知でした。」
「…………え…………。」
「ストーカー行為を長年なさっていたようです。」
「ストーカー? 俺は何もされていません。」
「はい、まだ何もしていない状態だったのです。
木村さんから警察の相談されていないですよね。」
「は……い。」
「この方、ご主人が亡くなられて、生命保険金など得られたんです。
それで、金に糸目をつけずに木村さんのことを調査依頼されたのが最初でした。
それから、次の依頼が木村さんご夫妻の離婚だったのです。」
「そんな…………。」
「それで、調査の結果の中に木村さんの個人情報も入っていました。
その情報を基にメールも送信されているようです。」
「それは、俺のパソコンへのメールですか?」
「いいえ、木村さんのスマホへのメールです。」
「そうですか………。」
「警察は今の状態で動きません。
木村さんが知らないのですからね。」
「そうですね。」
「ただ、行動が少しずつ変わって来られたのです。
それで、万が一が起きてはなりませんから……奥様が仕事で使っておられたパソ
コンへメールを送らせて頂きました。」
「あ………二回ですか?」
「いいえ、一回だけですし、奥様にお願いして読まれたら直ぐに削除して頂きまし
たので、残っていないと思います。」
「一回だけ………じゃあ、最初のメールは、その高校の同級生なのですか?」
「いいえ、送ってはおられません。」
「そうですか………。」⦅じゃあ、最初のメールは誰なんだ。⦆
「そのメールの送信者については、私どもでは分かり兼ねます。」
「そうなんですね。」
「それで、その方には奥様が家を出ていることをお伝えしました。」
「はぁ…………。」
「嬉しそうになさっておられましたが、離婚に至っていないことが分かると……
どんな風に行動されるかも分かりませんが、万が一は起きてはならない。
それで、シェルターに入って頂きました。」
「すみれに何かする可能性があるということですか?」
「はい、私はその可能性がゼロではないと思いました。」
「主人の刑事の勘です。」
「………誰なんですか? この写真の女性は……。
名前とか知っておかないと………。」
「依頼が終わっても、出してはならない依頼者の情報です。
ただ、今回は……今回だけはお伝えしたす。
守秘義務違反ですが……こちらに書いています。
名前だけですが……。」
「牛島杏樹……さん……居てたっけ?」
「高校の卒業アルバムでご確認ください。」
「あ……はい、そうします。」
「ただ、このことは誰にもお話されないようにお願い致します。」
「はい。」
俺は牛島杏樹という女性を全く覚えていない。
何もされていない。
だから、まだ俄かには信じられない気持ちの方が大きかった。
ただ、俺のこと調べた女性が居ることは単純に怖かった。
そして、俺は頼んだ。
「あの……これから先のことを話し合いたいのです。」
「それは勿論です。」
「すみれ、いいかな?」
「うん。」
すみれの気持ちを知りたかった。




