紬の決意
相川紬は涙を流しながら歩く姿を見られていることに、気付かないほど心が砕き散ってしまった。
家に帰っても泣いていた。
夫の帰宅時間は遅い。
何も出来ずに泣いていた。
そんな時、夫が帰って来た。
「ただいま。」
「!………早いのね。」
「うん、やっと会社が持ち直したみたいなんだ。」
「……そう……良かったわね。」
「どうした?」
「何が?」
「泣いてた………?」
「泣いてなど無いわ。」
「涙の痕がある。」
⦅どうして、こんな時に気付くの?⦆
「何も無いわよ。」
「そうか、そうだったらいいけど……。
忙しさにかまけて紬と会話もしてなかったからな。
反省してるんだ。」
「あなた………。」
「食事の支度、まだか?」
「あ……何もしてなかったわ。」
「そこに座ってろよ。何か作るから……。
冷蔵庫にある物で何か作るからさ。」
「……あ……りがとう。」
夫は優しく紬の背を撫でた。
紬は涙が止まらなくなった。
⦅この人の優しさに背を向けて、何をしていたの?⦆と紬は思った。
紬は取り返しがつかないことをしたことに、ようやく気が付いた。
⦅お腹の子は堕胎しよう。堕胎して、この人とやり直そう。⦆と思うと、心が少し軽くなった。
夫が作ってくれた食事は焼うどんだった。
「冷凍のうどんと豚肉があったから……。」
「うん、ありがとう。」
「食べられるかな?」
「なに? 食べられないものを作ったって確信してるの?」
「いや……泣いてたから、精神的に辛くて食べられないのじゃないか?
無理して食べなくてもいいんだぞ。」
「ううん、食べられるよ。」
紬は一口食べて言った。
「美味しい……美味しいわ。」
「そっか、良かった。
栄養バランスは悪いけどな。」
「ううん、たまには、いいよ。」
「そだな……俺なんか独身の頃はカップラーメン三昧だった。
だから、結婚して恵まれた食生活で、俺はラッキーだと思った。」
「ラッキー?」
「結婚出来なかったら今でもカップラーメンと共に生きてるよ。」
「なに……それ……。」
夫の顔を見て紬は泣き顔から笑い顔になった。
⦅この人を大切にするわ。これからは……。⦆
そう紬は心から思った。




