事実
両親と久し振りに食事を摂った。
父も母も食事中は何も聞かなかった。
食事を終えて俺がコーヒーを淹れた。
「お前にコーヒーを淹れて貰えるなど思わなかったよ。」
「まぁ、美味しいんじゃないの。」
「……ふっ……誰でも出来るでしょ、これくらいは……。」
「そう、すみれさんに淹れて貰ってたのに?」
「まぁ……家事はほとんどしてなかったから……。」
「だから、こんなに酷い有様だったのね。」
「何があった。何も無くて何も言わずに帰って来ないことは無い。」
「父さん……母さん。
俺は……不倫してたんだ。」
「え…………………なんでなの?」
「不倫した理由など知りたくも無い! それで?」
「知られたんだと思う。」
「思うって…………。」
「知られたと思った訳は何だ。」
「見て欲しいものがあるんだ。」
俺はノートパソコンに届けられたメールを見せた。
「これ…………誰からなの?」
「分からない。」
「これを、すみれさんは見たとお前は思うんだな。」
「うん、それしかないんだ。」
「そうか……で、それから、お前はどうしたんだ?」
「警察に届けた。」
「見つかってないんだな。」
「うん。」
「すみれさん、この程度で家を出たって言うの?」
「この程度、じゃなかったんだ。きっと、すみれにとっては………。」
「お前に聞かなかったのか? このメールの真偽を聞かなかったのか?」
「うん、そんなことは何も………。」
「会話すらしない夫婦なんて有り得ないわ。
何も聞かずに出て行くなんて………!」
「それで、お前はこれから、どうするんだ?」
「これから?」
「そうだ。今後のことを考えてないのか?
すみれさんと離婚して、今の相手と結婚するのも有りだ。」
「そうよね、それがいいわ。」
「無理だよ。」
「何故?」
「相手も既婚者だから………。」
「ダブル不倫!」
「お前……よりによって、そんな相手と……。」
「お互いに既婚者だから、本気にならずに……いいんじゃないかって思った。」
「はぁ………お前、相手の旦那に気付かれたら慰謝料を請求されるぞ。
それでなくても、すみれさんに支払はないといけないのに……。」
「すみれさん……慰謝料要らないって言ってくれないかしら?」
「無理だろう。原因を作ったのは、こいつだからな。」
「だったら、離婚したら駄目よ。
二重に支払うの大変じゃない。」
「俺は……不倫相手とは別れたいと思ってるんだ。」
「そうなのか?」
「うん、ちょっと怖いんだよね。」
「何が怖いの?」
「俺との子どもを妊娠したって………。」
「無理だろう! お前は無精子症だからな。」
「そうよ、だから嘘でしょ。嘘を吐いたのよ、その女。」
「妊娠は間違いないみたいなんだ。」
「え…………………だったら、ご主人の子よ。」
「違うらしい。」
「だったら、誰の子なのよ。」
「誰かに妊娠させて貰ったようなんだ。
それも、俺と同じ血液型の男に頼んだそうだ。」
「おい、その女、お前の血液型をなんで知ってるんだ?」
「たまたま、会社で輸血が必要な時があったんだ。
入院中の部下で手術の為に……その時、その部下と同じ血液型だった俺が輸血に
協力したんだ。
だから、会社の部下は皆知ってる。
このメールアドレスも部下は皆知ってるんだ。
このパソコンはリモートで使っていたパソコンだから……。」
「じゃあ、相手はお前の部下なのか?」
「うん。」
「そんな女とは早く縁を切りなさいよ。いいわね。」
「そのつもりなんだけど、なかなか上手く話がつかないんだ。」
「話がつかなくて困っているのなら、父さんが出よう。」
「父さん!」
「早く終わらせた方がいい、そんな女とは。」
「けど、なんて……。」
「呼び出せばいい。
但し、外の店で、だぞ。
父さんが贔屓にしている日本料理店で、というのはどうだ?」
「お父さんに頼みなさい。」
「父さん、でも、父さんに出て貰うより前に俺が決着を付けるから……
そのでも駄目だったら頼みます。」
「そうか、でもな、お前では無理だぞ。
父さんに任せなさい。」
「そうよ。そんな女は別れられないかもしれないじゃない。
お父さんに任せた方がいいわ。」
「……そう……かも……。
父さん、頼みます。」
「それがいい。任せなさい。
それから、すみれさんとは、どうするんだ?」
「先ずは不倫相手と別れてから……にしたいんだ。
すみれとのことは……今は考えられないんだ。」
「まぁ、一つずつ片付けた方がいいわよね。」
「そうだな。
日時と場所は連絡する。
相手の女には、こちらの都合に合わせて貰おう。いいな?」
「はい、お願いします。」
両親に話して、俺はホッとした。




