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癌と呼ばれ追放された俺、『組織票』スキルで成り上がります

作者: 夢野カイ
掲載日:2026/02/14

「シン。お前をこのパーティーから追放する。……お前は組織を蝕む、ただの癌だ」


 世界ランキング1位、『聖なる盾』の専用拠点。豪華な長机を囲む五人の中で、リーダーのゼノスが冷徹な宣告を下した。


「……え?何を言っているんだい、ゼノス。僕を追放するなんて、正気か?」


 シンは耳を疑った。このパーティーは、シンのスキル『組織票』による規律正しいコントロールがあってこそ、ここまで安全にやってこられたはずだ。


「ゼノス、君は少し感情的になっているんだ。先日君が提案した無謀な『黒き森のオーク集落への偵察』だって、僕が反対票を投じて止めてあげただろう?あのまま進んでいたら、犠牲者が出ていたかもしれない。僕というストッパーがいなくなったら、このパーティーは一日と持たないよ」


「……ストッパー、だと?」


 ゼノスが低く、地を這うような声を出した。パーティーメンバーの聖女リリアは顔を覆い、魔導師と武闘家は怒りに肩を震わせている。


「お前が止めたあの偵察のせいで、近隣の村が一つ滅んだんだぞ。お前が『安全第一』と称して投票で潰した作戦の裏で、どれだけのチャンスが失われ、どれだけの仲間が愛想を尽かして去っていったと思っている!」


「それは……結果論だ。僕はただ、多数決という正当な手続きで、パーティーを正しい道へ導いただけだ。パーティーの規約にもあるだろう?重要事項は多数決で決めると」


 シンは余裕を取り戻そうと、薄く笑みを浮かべた。彼の固有スキル『組織票デモクラシー・ブレイカー』。それは、世界のあらゆるシステムが「数」を判定する際、彼一人を強制的に「666万人」としてカウントさせるという概念干渉系の力だ。多数決になれば、一人で中都市の全人口を上回る票を投じ、どんな決定も覆すことができる。シンが「反対」と言えば、この追放案だって絶対に成立しない。


「いいよ、ゼノス。そこまで言うなら『僕の追放』について、多数決を取ろう。僕はもちろん反対に――」


「取らない」


 ゼノスの短い言葉が、シンの言葉を遮った。


「え……?」


「多数決などしないと言ったんだ。これは『決定』であり、一方的な『排除』だ。今この瞬間、このパーティーの規約から多数決の条項を削除した。いや……規約ごと焼き捨てたよ」


「そんなの、民主的じゃない!暴挙だ!多数決の重みがわからないのか!」


「ああ、暴挙だな。だが、お前一人のために、俺たち全員の人生をこれ以上無駄にしてたまるか。……リリア、やってくれ」


 聖女リリアが、泣きながら呪文を唱える。それは慈愛の魔法ではなく、強制転送の法術だった。


「シンさん……さようなら。もう、あなたの正論は聞きたくないの……っ」


「待て!話し合おう!多数決だ、多数決を取れば――!」


 シンが右手を伸ばすが、彼の持つ「666万」という数字は、この状況では何の防壁にもならなかった。空間が歪み、シンの体が拠点の外へと弾き出される。


「荷物はまとめて放り出しておいてやる!二度と俺たちの前にツラを見せるな!」


 ゼノスの罵声を最後に、視界が真っ白に染まった。

 気づけば、シンは王都の外れ、冷たい雨が降る荒野に放り出されていた。少し遅れて、頭上から粗末な布袋が落ちてくる。中には彼が使っていた最低限の着替えと、わずかな路銀だけが入っていた。


「……っ、ふざけるな……!」


 泥まみれになった布袋を掴み、シンは王都の巨大な城門を振り返った。これまで彼は『組織票』の力を、パーティーの平和のために使ってきたつもりだった。だが、彼らはその献身的な貢献を拒絶し、自分を泥の中に放り出したのだ。


「いいさ……勝手にしろ。もう二度と、あいつらのためにスキルは使わない。これからは、僕のためだけに、この『666万人分の力』を行使してやる」


 * * * *


 追放から三日。シンは寂れた酒場の隅で、安酒を煽っていた。そんなシンの前に、一人の男が現れた。黄金の重装鎧に身を包んだ巨漢。世界ランキング2位、パーティー『銀翼の鷲』のリーダー、剛腕のガルガだ。


「お前がシンか。『聖なる盾』を陰から支えていたという……」


「……だったら、どうした」


「俺たちと一緒に来い。万年2位の俺たちがゼノス達を追い抜くには、ランキング1位のノウハウが必要だ。待遇は約束する。副リーダー並みの権限を与えよう」


 シンは内心で喝采した。やはり、見る目のある者はいる。あんな独裁者のゼノスなんかより、自分を厚遇するガルガの方が遥かに器が大きい。


「いいだろう。ただし、条件がある。僕が入るからには、このパーティーの意思決定は全て『多数決』に従ってもらう。更に、このルールはギルドの誓約システムを使って強制力のあるものにする。前のパーティーでは独裁的なリーダーの暴走でひどい目に合ったからな」


「多数決か……。民主的なのは悪くないな。分かった、受け入れよう」


 シンは冷たく口角を上げた。ゼノスが規約を焼き捨てて自分を追い出せたのは、それが所詮は強制力のないルールだったからだ。ならば、ギルドの誓約システムに組み込んで、多数決を絶対的なルールにしてしまえばいい。


 こうして、シンはランキング2位の『銀翼の鷲』に迎え入れられた。元1位パーティーのメンバーという前評判もあり、他のメンバーも期待の眼差しを向けていた。加入初日の会議。シンは早速スキルを発動させた。


「これからの作戦指揮権を、僕一人に集約させるべきだ。賛成か反対か、多数決を取ろう」


 メンバーたちは顔を見合わせた。初日からリーダーシップを奪おうとする新入りに、反対の声が上がろうとした、その時。


『――システム判定。賛成:6,660,000票。反対:5票』『――可決。パーティーの指揮権はシンに譲渡されます』


「なっ……なんだ、この数字は……!?」


 驚愕するガルガたちを他所に、シンは冷たく言い放った。「これが民意だ。文句があるなら、僕以上の票を集めてからにしてくれ」


 * * * *


「シン!これ以上は無理だ!引き返すべきだ!」


 猛吹雪が荒れ狂う『絶望の氷峰』。ガルガの悲鳴に近い叫びが、氷の壁に跳ね返った。シンが選んだ今回の目標は、氷属性の魔物『フロスト・ドレイク』の討伐。だが、『銀翼の鷲』のメンバーは打撃に特化した構成であり、この極寒の地での戦闘は適性が最悪だった。


「何を弱気なことを言っているんだ、ガルガ。僕の計算では、あと1時間も進めばドレイクの巣に到達できる。ここで退けば、今までの消耗が無駄になる。……多数決を取ろう。進むべきか、退くべきか」


「そんなことをしている場合か!重装兵たちのスタミナは底を突き、狂戦士は凍傷で武器を握ることすらできないんだぞ!」


「多数決だと言っているだろう。……僕は『進む』に666万票。君たちの反対は……たった5票。はい、続行だ」


 シンの背後で、システムが無機質に『クエストの続行が可決されました』と表示する。その瞬間、絶対的な誓約システムの力によりメンバーの抵抗は不可能になる。


「やめろ……!死ぬ……死ぬぞ、シン!!」


「大丈夫だ。僕の『ストッパー』としての直感が、まだ行けると言っているんだ」


 シンの傲慢な確信は、直後に粉砕された。吹雪の向こうから現れたのは、一匹のドレイクではない。異常気象により、巣そのものが活性化した『フロスト・ドレイク』の群れだった。


「……あ」


 一斉に放たれる氷のブレス。大槌を構えていた重戦士は、鈍重な動作のままなす術なく凍りつき、前線で踏ん張っていたガルガも、盾ごと氷像へと変えられた。


「助けて……シン……助け……っ」


 ガルガの最期の言葉。ランキング2位を誇った英雄たちが、シンの「間違った多数決」によって、戦う術もなく蹂躙されていく。


「おかしいな……僕の計算では、ここで勝てばランキング1位になれたはずなのに。……まさか、『聖なる盾』と『銀翼の鷲』にここまでの力量差があるとは想定外だ」


 シンは冷酷に言い捨てると、阿鼻叫喚の戦場に背を向けた。仲間たちがドレイクに喰われ、氷の中に消えていく中、シンだけは回復や逃走のアイテムを独占し、無傷で雪山を降りていった。


 * * * *


 雪山から逃げ帰り、報告のために冒険者ギルドへと足を踏み入れたシンは、そこで信じられない光景を目にした。


「おおおおお!!『聖なる盾』がやったぞ!史上初の古代竜エンシェント・ドラゴン討伐だ!!」


 地鳴りのような歓声。ギルドの中央には、かつての仲間たち――ゼノス、リリア、そして他のメンバーが、英雄として担ぎ上げられていた。彼らの顔には、シンがいた頃には決して見せなかった、晴れやかで力強い自信が満ち溢れている。


「……古代竜?嘘だ。あいつらが、僕というストッパー抜きで、そんな危険な賭けに勝てるはずがない……」


 シンは立ち尽くした。自分が『聖なる盾』を追放された後、彼らは目覚ましい成長を遂げ、自分が「多数決」で禁じ続けていた難攻不落のクエストを次々と達成していたのだ。「おい、あいつ……『銀翼の鷲』の生き残りじゃないか?」「ああ、あの『癌』か。パーティーを壊滅させたらしいぜ」「一人だけ逃げ出すなんて、最低だな」


 周囲の冷ややかな視線が、刃のようにシンに突き刺さる。自分の正しさが、目の前で証明された「結果」によって無残に粉砕されていく。シンは、壊滅した『銀翼の鷲』の報告すらできずに、逃げるようにギルドを飛び出した。


 * * * *


 あれから、シンの生活は一変した。「パーティーを壊滅させる癌」としての悪名は世界中に広まり、もはや彼を雇うギルドなど存在しない。地位も名声も、そして金も底をついた。


 冷たい風が吹く夕暮れ時。シンは王都の片隅で行われている、貧困層向けの炊き出しの行列に並んでいた。今日の献立は豚汁だ。

 列の前方で、ボロボロの服を着た老人が、申し訳なさそうにボランティアのスタッフに問いかけていた。


「あの……もう一杯、おかわりをいただけないかのう……?」


「ごめんなさい。一人一杯までって決まっているんです」


 老人は力なく肩を落とし、去っていった。やがて、シンの番が来た。手渡された木の器には、わずかな肉と野菜が入った豚汁。あまりの少なさに、シンは落胆した。


「おい。これはあまりに少なすぎないか?これでは腹の足しにもならない」


「……すみません、今日は人数が多くて」


「前のじいさんも断られていたが……本当におかわりはできないのか?」


 スタッフの女性は、面倒そうに手元の「配給管理用水晶」にシンの手をかざさせた。この水晶は、個人の受給資格を厳密に管理する魔導具だ。

 ピピッ――。

 その瞬間、水晶が激しく点滅し、見たこともないようなエラー音を奏で始めた。


「……えっ?ええええええっ!?」


 スタッフの女性が、悲鳴に近い声を上げる。水晶に浮かび上がった数字を見て、彼女の手がガタガタと震え出した。


「ど、どうしたんだ?」


「あの……この水晶の判定によると……『一人一杯』というルールにおいて、あなたは……あと6,659,999回おかわりが可能です……?」


「……なんだって?」


 シンは、手元の豚汁を見つめた。老人が断られ、民衆が空腹に耐える中、自分一人が数百万杯を独占できるという、あまりにも歪んだ特権。


「……そうか。そうだよ。当然だ!あはは……あはははは!」


 シンは狂ったように笑い出した。やはり、自分は特別だった。ゼノスたちがどれほど強い魔物を倒そうが、『組織票』こそが最強のチートスキルだ。自分には666万人分の力が、価値が、そして権利がある。


 シンは急いで炊き出しの列を離れ、その足で生活保護の申請カウンターに向かった。

なろう初心者です。最後まで読んでくれた方いらっしゃいましたら、☆1でも構いませんので評価付けて頂けると大変励みになりますm(__)m

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